芸能人の愛用時計

佐藤 蛾次郎 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.56-2)

左はバッグや洋服も多く持っているというハンティングワールドの時計。真ん中のロレックス デイトジャストは結婚記念に奥さんとペアで買ったものだが、おふたりともほとんどしていないそうだ。右の時計はラスベガス土産のノーブランド品だが、あしらわれたインディアンジュエリーがいい雰囲気だ

 

腕時計はもちろん、懐中時計にアクセサリーウオッチまで時計は40個ほど持っていたこともある。そんな中から「この1本」と見せてくれたのは、シンプルな黒革ベルトのパテック フィリップだ。

「20代のとき、撮影所のスタッフにお金を貸して、代わりにもらったんです。当時は全然興味がわかなくてねえ。地味だし、年寄りの持つ時計みたいだって。1回も着けずにいたんだけど、20年も経ってからかな、分解掃除してもらいに銀座の服部時計店に持って行ったら、『これを見たのは店の歴史の中でもまだ2回目ですよ!』と感心されてね。何かの記念で作られた希少なものらしい。『さすが杉さん、凄い時計だ』と言うんだけど、凄くは見えなくてね」

時計に興味を持ったのは、“遠山の金さん”を演じる少し前くらいの頃。キラキラ輝くジュエリーウオッチが好きで、自分でもたくさん買い集めた。とにかくスターは派手な時代だったのだ。

「当時はネックレスも二重三重、サングラスをかけ、そこに浴衣を着て足元は雪駄、それでアメ車を運転して撮影所に行っていました」

でも、30代の半ば頃、そういう格好をすっぱりやめた。「外見をいくら飾っても、中身が輝いていないとだめだと思って」。そう思うようになったのは、いまも息長く取り組んでいる福祉活動の場を通じてだ。

「最初はジャラジャラネックレスをして行ってたんですよ。でも、やっぱりマッチしないんでね」

いまや杉さんの福祉活動を知る人も多いだろう。東日本大震災の際には、自前で数十台のトラックを連ねて駆け付けたと話題になったが、災害時に限らず、刑務所、精神障がい者施設などあらゆる場で、困っている人に手を差し伸べてきた。国内外問わず若い頃から続けていることだ。

「いままで多くの人になぜやるのかと尋ねられてきましたが、理由なんてない。いつやってもよいし、やめてもいい。自然体だから続くんです」。そう言いながら、何もかも抵当に入れ、億の借金をして寄付をしたこともある。「自分でもバカだと思うけど、バカでも実行するほうがいい。苦しいから人には勧められません。でも福祉活動は人それぞれでいいわけだから」

そう穏やかに語る杉さん。そんないまの杉さんに、パテック・フィリップはとても似合うのだ。

 

 

佐藤 蛾次郎俳優)
GAJIROH SATOH 1944年8月9日、大阪府生まれ。9歳から朝日放送児童劇団で子役として活動。61年にドラマ『神州天馬侠』の泣き虫蛾次郎役を演じてから現在の芸名になる。その後は映画『男はつらいよ』シリーズで車寅次郎の舎弟の源公役を演じ、国民的映画に欠かせない重要キャストとして幅広い人気を得る。源公のコミカルなイメージが強いが、実際にはシリアスな演技もこなし、映画、ドラマ、舞台と幅広いフィールドで活躍する名バイプレーヤーである。同じく俳優として活躍する佐藤亮太は実の息子。

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