ドイツ時計の伝統と革新を探る<3/4プレート>

3/4プレートのイメージ

 

Three-quarter plate

3/4プレート

 

薄さと頑強さを両立させた
アドルフ・ランゲの試み


グラスヒュッテ時計の個性として知られる、通称3/4プレート。
これはムーヴメントの4分の3を覆う、一体型の受けのことだ。ではなぜ、こういう形になったのか、疑問に感じたことはないだろうか。今回は、このグラスヒュッテ時計の象徴するディテールである、3/4プレートにスポットを当てる。

アドルフ・ランゲ

グラスヒュッテに時計産業を興したアドルフ・ランゲ(写真)と、その師であるクリスチャン・フリードリヒ・グートケス。師弟でありながら、両者の作風はまるで異なっていた。

グートケスが一貫して好んだのは、イギリス風の“出テンプ”であった。当時のイギリス製懐中時計は、香箱をふたつ備えた鎖引きが標準であり、そのため、精度を司るテンプは、受けの上に飛び出していた。おそらくグートケスは、当時の先進国であるイギリスの時計作りに傾倒したのだろう。
対してパリで学んだアドルフ・ランゲにはフランスの影響が見え隠れする。そのことは、ごく初期のランゲが、社名をフランス風に“A. Lange & Cie”と名乗っていたことからも伺えよう。



1770年頃、フランスの時計師であるアントワーヌ・レピーヌは、薄型の通称“レピーヌキャリバー”を開発した。これはひとつの香箱と薄型のシリンダー脱進機をもつ、革命的な薄型ムーヴメントであった。以降このレピーヌキャリバーをもって、スイス時計産業は世界を制することになる。
アドルフ・ランゲは、グートケスと共同作業をしていた時代から、師匠の好む出テンプではなく、フランス流のレピーヌキャリバーを製作していた。しかし普通のレピーヌとは違いがあった。レピーヌの受けは細かく分割されていたが、ランゲのそれは、テンプ以外の香箱や輪列が覆われた、巨大な一体型だったのである。やがてその受けは拡大し、少なくとも1858年には、現在の3/4プレートに近い物となった。

ごく初期のグラスヒュッテ製ムーヴメント
ごく初期のグラスヒュッテ製ムーヴメント(左1848年/右1849年製)。輪列と香箱を覆う一体型の受けがすでに見て取れる
初期の3/4プレート
初期の3/4プレート。ただしこの時計はアメリカ向けらしく地板や受けが洋銀に変更され、加えてその上に機械彫りのダマスキン加工が施されている

アドルフの息子であるリヒャルト・ランゲは、彼が3/4プレートに至った理由を、1869年の特許に関する資料にこう記した。

「時計の設計にあたって、まず父は、(受けや地板の)穴、そしてそれらの深さ、加えて脱進機が明確に配置されていることが目視できること、そして可能ならば、それらの位置が変更できないことを心がけた」。

ムーヴメントの骨格にあたる地板や受けを頑強に作り、加えて歯車や香箱を固定する穴を適切な位置に開けることができれば、組み立ては容易になるし、時計の性能も上がる。
1860年以降、グラスヒュッテの各社は3/4プレートを模倣。もっとも、これらのメーカーにエボーシュを供給するサプライヤーが、3/4プレートに切り替えたことも普及の一因だろう。
やがてA.ランゲ&ゾーネやユリウス・アスマンは、アメリカ向けの受けや地板を、真鍮の金メッキから、磨き上げた洋銀に変更している。これはグラスヒュッテ時計固有の個性とはいえなかったが(スイスにも同様の例がある)、復活したA.ランゲ&ゾーネが再び採用。いまやグラスヒュッテ製高級時計の特徴になりつつある。

フランスの影響を受けて始まった、アドルフ・ランゲの時計作り。しかし薄さと頑強さを両立させようとする彼の試みは、やがてドイツ時計の大きな個性となったのである。

グロスマンのムーヴメント
現在のモリッツ・グロスマンのムーヴメント。同社はこれを2/3プレートと称しているが、広義の3/4プレートに含まれるだろう。現在のグラスヒュッテ製高級機らしく、洋銀製の受けと地板を備える

 

ラング&ハイネのムーヴメント
ラング&ハイネも、伝統的な3/4プレートを採用するメーカーのひとつ。プレートのほかにも、カッティングを施したダイヤモンドの受け石や、口ひげのような形状をしたカウンターウエイトを持つアンクルなど、随所に古典的なディテールを取り入れている
ランゲのムーヴメント
諸説あるが、ドイツに3/4プレートをもたらしたのは、アドルフ・ランゲとされている。当然ながらいまのA.ランゲ&ゾーネも、基本的には3/4プレート(4/5)だ。ただし意匠は似ているものの、素材はまったく異なる。かつてのような真鍮ではなく、現在のA.ランゲ&ゾーネは洋銀を用いている。ただし19世紀の輸出用懐中時計には、3/4プレートに洋銀を使用した例もある

 

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