1,569

男の肖像時計の選択 

時計に限らず、何かと道具にこだわる男性は多い。たとえば昔は専門外であった料理にしても、今は男性の方が包丁などの道具にこだわり、素材にうるさかったりもする。

そんな 厨房に入る男子 にとっては師であり、よき兄貴的存在でもあるのが、料理家のケンタロウさんだ。さまざまな調理器具を扱う料理人の手には、どのような時計がはめられているのだろうか。

「時計選びのポイントは、シンプルで、丈夫で、自動巻きのもの。それを考えて選んでいったら、自然とミリタリーっぽいのばかり集まりましたね。軍モノは規格が厳しいですから、一つひとつがシンプルだけど、機能もデザインも完成度が高い。まさに機能美が出ていて、そこに惹かれるんですよ」

軍モノは規格が厳しいですから、一つひとつがシンプルだけど、機能もデザインも完成度が高い。まさに機能美が出ていて、そこに惹かれるんですよ

ケンタロウの時計
ケンタロウの時計

現在愛用しているのがオメガのスピードマスターにナイロンベルトを付けたもの。実際に料理をするときにも着用し、煮込む時間を測るときにクロノグラフを使うこともある。その前がギャレットのマラソンで、ロレックスのエアキングとオメガのシーマスター300も所有。こうして見ると、いろいろなモデルをそろえて楽しむタイプではないようだ。

「服でも何でも、趣味が変わったり、流行を追ったりというのは、あまりないですね。何年も前に買った服を今でもよく着てたりしますよ。しかも古着なんですよ(笑)」

取材で訪れた事務所の様子も、時計に通じる雰囲気があった。椅子や小物はどれもよく使い込んだ感はあるが、決して古臭さは感じられない。奥のほうには実際に使っている鍋やフライパンが重ねられているが、それらもまるでインテリアのように部屋の雰囲気にマッチしている。

ケンタロウの時計

「調理器具を選ぶときも、実際によく使えることが大事ですね。デザイン先行だと飽きちゃうんですよ。逆にシンプルなものは完成度が高くて、何年も使えます。今使っている包丁も何度も研ぎながら6、7年使い続けているので、かなり細くなってきましたね」

自分好みの環境のなかで、手に馴染んだ道具を使う。そうやって作られた料理は、そのままケンタロウさんの人柄を表わしているようにも思える。

「基本は家庭料理ですね。素材や盛り付けを工夫したりはしますけど、奇をてらった料理はあまり好きではありません。カレーや餃子のようなどこの家庭でも食べるものは、一度だけでなく、また食べたくなるものです。家庭料理というものも、普通っぽいけど完成度が高いんですよ」

デザイン先行だと飽きちゃうんですよ。逆にシンプルなものは完成度が高くて、何年も使えます。

ケンタロウさんは、小学生の頃に当時全盛期のデジタル時計に憧れたのが、時計に凝るようになったきっかけだった。「機械的なところやギミックがカッコよかった」という理由は、今の時計の趣味にも通じている。そしてその頃の記憶に残る家庭の味も、現在のケンタロウさんの料理へとつながってきた。

作る楽しさ、食べる楽しさを伝えるべく、愛用の包丁を握り、フライパンを振るケンタロウさん。長く愛されるものを知る男の料理は、同じように誰からも親しまれ、いつまでも忘れられない味だ。

POWER Watch No.17(2004年9月)掲載  取材・文◎高橋 智/写真◎村上浩次郎

  • KENTARO
    ケンタロウ (料理家)
  • 1972年東京生まれ。大学在学中よりイラストレータとして活動を始める。その後、料理家としてデビュー。テレビやラジオ、雑誌などで料理を紹介するほか、書籍、料理講習、惣菜商品の企画開発など、幅広く活動する。若者の視点で、「簡単でおいしくって洒落っ気があって現実的なもの」をモットーに、幅広い層に向けてジャンルを問わない料理を提案している。また、料理以外にも、さまざまなジャンルで、雑誌、新聞にエッセイを執筆する。