機械式腕時計の復活
ここ数年、オールドムーヴメントを発掘し、ケースや文字盤、針などを新たに製作して、新品として販売することが増えてきた。発掘のされ方はさまざまだが、部品としてストックされていたものを、ていねいに仕上げ、欠品していた部品は新たに作り直すなどの手を加えて製品となる場合が多い。
クォーツ式時計に押されて衰退した機械式時計は、1980年代から世界的に高まったアンティーク(もちろん機械式)時計のブームとともに再評価され、1990年代にジャガー・ルクルトを中心に復活の兆しが見えてきた。新品時の精度では現行品に軍配が上がるが、耐久性においてはアンティーク腕時計が勝っている。
機械式手巻き時計は1930年代後半から1950年にかけてピークを迎えた。19世紀末に工作機械の進歩により、部品の工作精度が手作り時代と比べて著しく向上し、小さな腕時計用の部品の製造が可能になった。さらに1930年代になると、時計の心臓部ともいえるヒゲゼンマイに特殊合金を採用し、さらに正確に時を刻めるようになった。駆動用ゼンマイ(メインスプリング)も切断することが少なくなる。耐震装置も開発され、落とすと天芯が折れるという最大の欠点も克服した。





いいものが生き残る
以上の新たな開発のすべてを、コスト高を恐れず、次々と採用したのである。1940年代後半から1950年代前半には、それまでは異端児とされて高級時計メーカーから無視されてきた機械式自動巻き時計の開発が、ようやく行われるようになってきた。そして各社とも1950年代の第1世代に改良を加え、1960年代に第2世代自動巻きがピークを迎えた。この現象はマニュファクチュールからエタブリシューまで、すなわちすべての時計メーカーに共通している。このことはムーヴメントに詳しい時計職人さんに聞けば明確な返事が返ってくるはずだ。
オールドムーヴメントが再び見直されるのは当然のことではあるが、ただ古ければよいのではなく、先に述べた年代のものか見極めることが大切だ。
この年代に製造されたオールドムーヴメントは、新たな発明を、コストを度外視して採用しただけでなく、ムーヴメントの素材となる真ちゅうも、スイス製はほとんど摩耗がなく、耐久性にすぐれていた。このため、40年から70年ほども経過した現在も、日常の使用に耐えられる。いわゆる一生ものの腕時計になれるのだ。
ところが、現行品の高額機械式腕時計を一生ものと信じているわれわれの期待に反して、時計メーカーは一生ものとは思っていないようだ。ムーヴメントにコストをかけず、宣伝費にかける。残念ながら、この商法がことごとく成功している。
マラソンにたとえると、1943年製のミネルバ(マニュファクチュール)のキャリバー48が第1集団の後方を走っていた。60年近い年月が経ち、自分より前を走っていたすべてのムーヴメント(選手)が製造を中止(棄権)していた。知らぬ間に前も後ろも全員いなくなっていた。ひとりだけしか走っていないから、第1位になっていたのだ。
確かにオールドムーヴメントは注目に値するが、年代、ランク、品質などを見極め、適正価格か否かを判断することが大切だ。

