かつて時計は、ミッション遂行に欠かせない重要な軍装備品でもあった。
それだけに精度はもとより耐久や視認性など高い水準での性能が求められたのである。
世界大戦期、イギリスやアメリカなど各国で軍用時計が運用されたが、当時そのなかでも高い性能を誇ったとされるのがドイツの軍用クロノグラフだ。
ドイツで軍用として運用されたクロノグラフは主に2種類ある。ひとつはハンハルトのクロノグラフでこちらは主に海軍所属のパイロットが使用した。
そしてもうひとつがチュチマ フリーガー クロノグラフだ。これは、1940年に空軍からの依頼で開発されたもので基本的には空軍所属のパイロットが使用。UROFA製クロノグラフムーヴメント、Cal.59を採用し、41〜45年までの間に約3万個が製造されたとされる。この多くは戦中に失われ、現存したものの大半は戦後、旧ソ連に持ち去られたと言われる。
いずれもチュチマのフリーガークロノグラフ。左の個体の文字盤には“T”と“GLASSHÜTTE”の文字がプリントされているが、右の個体のように表記のない個体も希に見られる。グラスヒュッテで製造された最高精度の腕時計がチュチマモデルとされ、その証として“T”と“GLASSHÜTTE”の表記が与えられたと言われる
このモデルで特筆すべき点のひとつは第2次世界大戦中のドイツで使用されたクロノグラフで最も優れた精度を誇ったという点だ。マイナス10度〜プラス40度の環境下で、日差はマイナス3〜プラス12秒という高精度を誇り、コクピットクロック代わりとして使用されるほどだった。そしてもうひとつ、当時としては珍しいフライバック機能を備えていた点も大きな特徴だ。
これだけ優れた軍用クロノグラフは当時、非常に希少な存在だったらしく、終戦後、各国の軍用クロノグラフはチュチマのフリーガー クロノグラフをベースに発展を遂げていくこととなった。実はフランス空軍が運用したタイプ20は、ドイツ空軍のフリーガークロノグラフに匹敵する高性能クロノグラフを求めて仕様を定められたもの。見た目がよく似ているのはそのためだ。
フランス空軍用クロノグラフ“タイプ20”
往年のフリーガークロノグラフが限定復刻
チュチマ(現チュチマ・グラスヒュッテ)では、1990年代初頭に、このフリーガークロノグラフのデザインを受け継いだモデルを“クラシックフリーガークロノグラフ”(Ref.783-01)として復刻し、ロングセラーとなっていたのだが、拠点をグラスヒュッテに移したタイミングでコレクションを刷新。往年の横二つ目仕様となったモデルは生産が終了していたのだが……
フリーガーフライデークロノグラフリミテッド・エディション。SS(38.5mm径)。10気圧防水。手巻き(Cal.7760)。世界限定25本。41万8000円
この度、25本限定で復刻されたのである。
人気が高まり続けているソーシャルメディアハッシュタグ#FliegerFridayに投稿している世界中のパイロットウォッチ愛好家やコレクターを称えて発売されるものだと言う。
かつて展開されていたRef.783-01同様、重要なデザイン要素となっているレッドマーカー付きの双方向回転ベゼルや当時と同じインデックスのフォントを備えていることに加え、小振りなケースサイズも踏襲。昨今では希少な38.5mm径という絶妙なサイズ感は大きな魅力と言えよう。また、搭載しているのは金メッキのブリッジが与えられたETA社のCal.7760ベースのムーヴメント。それはシースルー仕様となった裏ブタから見ることができる。
左がオリジナルで、右がこのたび復刻されたフリーガーフライデークロノグラフリミテッド・エディション
わずか25本限定生産だが、日本にもごく少数入荷されるとのこと。気になる人はぜひ早めにチェックされたし。
文◎堀内大輔(編集部)
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