安齋 肇 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.62)

ふだんは時計をしないが、時計のデザイン自体は好きでコレクションもしていた。しかし数年前に空き巣に入られて、ほとんど盗まれてしまったそうだ。これは自身がデザインしたキャラクター時計たち。真ん中は懐かしのJAL「リゾッチャ」キャンペーンのもの

 

安齋さんといえば、イメージはやはり遅刻。なんといってもあのタモリさんを何時間も待たせる強者だ。そして取材当日もやはり小1時間ほど遅れて……。

「今日は出かける直前に電話がかかってきて、その相手がなかなか電話切ってくれないんですよ。その時点でもう遅刻が確定してまずいなって思ったんですが、そこにこの前やった展覧会の作品が大量に戻ってきちゃって。だけどそのときは事務所に自分しかいなくて、その大量の荷物をやっと部屋に運んだと思ったら、また宅配便の人が来て、それが今度は買い物の代引き便だったんですよね。そのお金を探しているうちにこの時間になっちゃいました。すいません!」

言い訳もほとんど落語だ。これをあのゆるゆるの笑顔で言われるから、なんとも憎めない。

「子供のころから学校はよく遅刻してました。親のせいにするわけじゃないですけど、育った家庭が遅刻とか気にしない家風だったんですよ。もう遅れそうなのに『いいからごはんを食べてから行きなさい』って。子供の頃はともかく、大人になると人生の節目には絶対遅れちゃいけないイベントだってありますよね。そういうのもたいてい遅刻してました(笑)。あと飛行機や新幹線。ここだけの話ですが、飛行機の出発を30分くらい待ってもらったこともあります。航空会社のキャンペーンやってる頃(笑)。どうしてもその便に乗らなきゃならなくて、電話で頼み込んでなんとか遅らせてもらったんです。空港で変なステッカーを胸に貼られるんですよ。それを貼ってると荷物の検査とかチェックインとかフリーパス。それで飛行機に駆け込んだんですが、みんなの目は冷たかったですね(笑)」

こんなラテン気質で今までの人生を乗り越えてきたのだから、やはりこれは一種の才能なのだろう。しかし時間に対する意識は最近改まってきたという。

「印刷物って最終的に刷り上がって納品されればOKだから、デザインの仕事だと少しは時間に余裕があるんだと勘違いしがちなんです。本当は違うんですけどね。でも、もっと細かい分刻みのスケジュールで動いている世界もあるわけですよ。タモリさんもそういう世界の人だし、よくお説教されますよ。『あなたが遅れたことによって、この現場のスタッフには次の約束に遅れて困る人がいるかもしれない。その責任をあなたは取れるのか?』って。タモリさんにそこまで言わせちゃったんで、少しだけ気持ちを改めるようにしました。2週間くらい前の話ですけど(笑)」

本当に憎めない人です。このままずっとそのままでいてください。

 

 

安齋 肇(イラストレーター・アートディレクター・ソラミミスト)
HAJIME ANZAI 1953年12月21日、東京都生まれ。実父は画家の安齋知行で、父の影響で幼い頃から絵に親しむ。レコード会社のデザイン室などを経た後、29歳でアートディレクターとして独立。日本航空のキャラクターデザインをはじめ、愛らしいタッチのイラストで広告、雑誌、絵本、CDジャケットなど幅広く活動。またフーレンズなどのバンド活動、「タモリ倶楽部」のソラミミストのほか、俳優業やナレーション、バラエティ番組出演など、非常に幅広いジャンルで活躍している。