林家 たい平 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.67)

シチズンのエコドライブ搭載電波時計。ラジオの現場ではクロノグラフ機能もよく使った。使うたびにいちいち時刻を合わせなくていい点も好きだという

ディーゼルのデニムをさりげなくはきこなし、落語家のイメージとはかけ離れたいで立ちで現れた、たい平師匠。一般的な芸人のイメージとは異なり、時間にも非常に正確だ。

「落語家というと昼過ぎに起きて、明るいうちからお酒を飲んでというイメージがありますが、それだと一般の人とかけ離れてしまう。落語を聞きに来てくれる人の多くは普通に会社勤めしたり、自分で商売をしている人たち。そういう人たちと同じ生活をしていなければ、共感を得られるような落語はできないんじゃないかと思うので、朝は必ず6時半には起きています。寄席の出番に遅れることもまずありません。師匠に『寄席というのは多くの芸人が集まって作り上げていく場所だから、迷惑をかけてはいけない』といった心構えはきつく言われてきましたから」

現在使っている時計は、シチズンのプロマスター・クロノグラフ。エコドライブ搭載の電波時計だが、これも時間の正確さにこだわったゆえの選択だ。

「以前、テリー伊藤さんとニッポン放送で『のってけラジオ』という番組をやっていたんですが、あの番組はアシスタントの局アナがいなくて、僕が曲やCMのタイミングを仕切っていたんです。お昼のラジオって番組内にコーナーがいっぱいありますから、細かい時間の決まりが多いんですよ。そのために絶対に正確な時計が必要で、この時計が手放せなかったんです。ストップウオッチ機能も付いているんで非常に重宝しました。このときに鍛えられたんで、いまでもラジオの仕事で『この原稿を100秒で読んでくれ』なんて頼まれても、アナウンサー並みに正確に収めることができます」

もちろん時計に興味がないわけではなく、衝動買いしてきた時計は20本以上。

「生前の古今亭志ん朝師匠と大阪の落語会に出かけたとき、師匠が高級腕時計のショーウインドウを見て『あー、この時計欲しいなあ』って心底欲しそうにしてたんですよ。同行していたおかみさんが、『そんなに欲しいなら買っちゃいましょう』ってなかに入ったんですけど、そこはただのショールームで販売はしてなかったんです。東京に帰って百貨店で同じ時計を見たんだけど、そのときは気持ちが冷めちゃって結局買わなかったって話されてました。時計って出合いが大事なんだと思います。一流品を身につけて磨かれる芸もあると思うけど、いまの自分にはこのシチズンが身の丈に合ってます。いつか高価な時計が似合う落語家になれるよう精進していきたいですね」

 

林家 たい平落語家
TAIHEI HAYASHIYA 1964年12月6日、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学在学中に落研で落語に出合い、卒業後に林家こん平に入門。NHK新人演芸コンクール優秀賞などを受賞して頭角を現し、2000年に真打昇進。人気番組「笑点」のレギュラーメンバーとして全国的に高い知名度を誇り、その明るいキャラクターで人気を得ている。古典落語に対しても本格派で、滑稽噺から人情噺まで持ちネタは多い。2010年から母校である武蔵野美大の客員教授も務めている。