【ロレックス(ROLEX)】通信 No.004|わずか1、2カ月で約50万円も変動! 旧GMTマスターII

 今回のロレックス通信から何回かに分けて、生産終了モデルについても触れてみたいと思う。

 さて、ロレックスがお好きの方であれば、当然ご存じのことと思うが、ロレックスにはほかの高級時計ブランドにはないある特殊な一面がある。それはプレミアム価格だ。

 現在、ロレックスの現行スポーツモデルのほとんどが、並行輸入市場において、その実勢価格が国内定価以上のプレミアム価格状態という異常な状況は、あらためて別の機会に取り上げるとして、ここでは生産終了モデルのプレミアム価格について書かせていただく。

 ロレックスのプレミアム価格は、ステンレススチール製のスポーツ系人気モデルに限ってのことだが、それが定番のレギュラーラインであってもモデルチェンジなどで生産が終了することがわかると、途端に市場が反応しそのモデルの実勢価格が上がる。高級時計ブランドのなかでもかなり特殊なことである。

 本来であれば、ニューモデルのほうが性能面では間違いなく向上しているわけだから、生産終了した製品は型落ち品として逆に安くなるのが一般的。しかしながら、ロレックスの人気の定番スポーツ系モデルに限っては、それが当てはまらない。

 では、なぜそうなるのか。大雑把に書くと次のとおりだ。

 ロレックスの定番モデルの大半は10年以上と、モデルチェンジまでのスパンがとても長い。ある意味この点もロレックスの品質の高さを表す魅力的なところなのだが、それが新品でもう手に入らなくなることに加えて、最終モデルは新モデルへの入れ替え時期ということもあり製造数が少ない。そのため純粋に時計を所有するという人だけでなく、少ないがゆえに今後の値上がりを期待した投機的な目的も購入動機に絡んでくる。つまり、そのため駆け込み需要も含めてさらに需要増となってしまう。その結果、実勢価格がどんどん上昇するというわけである。

 もちろん理由はこれだけではない。ひとつの例として挙げていることを含みおきいただきたい。

今年、生産終了となったGMTマスターIIのRef.116710LN(左)とRef.116710BLNR(右)。(写真:改訂版ゼロからわかるロレックスより)

 さて、今年も2019年新作の発表に伴い、生産終了となったものがいくつかあるが、そのなかで飛び抜けて高騰したのが黒と青のツートンベゼルを備えたRef.116710BLNRと黒の単色ベゼルを備えるRef.116710LNの二つのGMTマスターIIだった。

 2018年、GMTマスターIIに新たに加わった青と赤のツートンベゼルを装備したRef.126710BLROに最新の自動巻きムーヴメント、Cal.3285が搭載されたことを受け、既存モデルもこのCal.3285に積み替えられてマイナーチェンジされることは当初から予想されていた。

 しかし、2019年新作として発表されたのは、黒と青のツートンベゼルを備えたモデルのみで、黒の単色タイプはそのまま生産終了となってしまったのである。

 それを受けて市場が即座に反応した。下に掲載したグラフは弊社が刊行する高級時計専門誌「パワーウオッチ」106号(5月30日発売)に掲載した記事に挿入されたGMTマスターIIの実勢価格の推移を示したグラフである。

バーゼルワールドデ生産終了が発表になったRef.116710LNとRef.116710BLNRの実勢価格の推移(出典:パワーウオッチ106号)

 スイスで開催された時計の見本市、バーゼルワールドにおいてロレックスがニューモデルを発表した3月20日を境に両者とも上昇している。特に黒の単色ベゼルタイプは驚くべき高騰を見せていることがわかる。

 バーゼルワールド開催前に、国内定価95万400円に対して実勢価格が120万円前後だったプレミアム価格は、一時170万円台まで上昇した。わずか1、2カ月で黒ベゼルの実勢価格が約50万円も高くなったのだから、なんとも恐ろしいではないか。

 ちなみに、黒ベゼルタイプが登場して間もない2008〜2012年頃までは当時の国内定価71万4000円が為替の関係もあって並行輸入市場では50万円台後半で買えた。それから比べると一時期とはいえ3倍以上も高騰したことになる。

 グラフは5月20日までのため、現在の実勢価格が気になり調べてみると、黒ベゼルタイプは4月下旬に最高値になった以降は下降を続け、現在は140万円前後。黒青ベゼルタイプが6月上旬をピークに現在は180万円台と、両者とも急激に値を下げている。短期間の間にここまで乱高下した例は、筆者の記憶では初めてではないだろうか。

 下がった理由だが、恐らくはあまりにも高額になってしまったため、市場がそれに追いつかなかったのだろう。そのためいまだに商品は新品も中古も普通に流通しているようだ。

 余談だが、この黒ベゼルタイプが登場したのは2007年のこと。それに伴って生産終了になったRef.16710は当初、実勢価格は多少上がったもののプレミアム価格とはならず、上がり始めたのは2年以上経ってからだったように記憶している。理由は人気がなかったからである。それがいまやUSED価格にもかかわらず100万円以上。なんとも皮肉な話ではないか。

2006年に生産終了したGMTマスターII、Ref.16710。

 ということで次回の生産終了モデルは、この2006年に生産終了したGMTマスターIIの旧モデル、Ref.16710について取り上げたいと思う。

文◎菊地吉正(編集部)/写真◎笠井修

 

 

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。