【ロレックス】通信 No.024|初代GMTマスターのパンナムモデルが何と日本にあった!

存在自体が謎に包まれた激レアピースは白文字盤だった

 今回は、筆者が編集長を務めるアンティークウオッチの専門誌「LowBEAT(ロービート)」の2019年4月に刊行したNo.15の記事から、当時に取材させていただいたアンティークウオッチの専門ショップ“クールオークション”の林氏の許可が得られたため、GMTマスターの話題を紹介する。

 この写真を見て「あれっ!」と思った人は多いだろう。そうだ、GMTマスターは本来黒文字盤なのに、それは白だったからだ。実はこの個体! 筆者も初めて目にしたもので、何と当時のパン・アメリカン航空に納入され、その存在自体が謎に包まれていた通称“パンナムモデル”なのである。しかも日本国内で発見されたという驚くべき代物だった。

この個体の大きな特徴となっているのが、通常にはない白文字盤を採用している点だ。表面はミラーダイアルのような艶感があるため、樹脂加工が施されていると考えられる

 そもそもこのGMTマスターだが、パン・アメリカン航空からの要請でロレックスが開発したことはみなさんも周知の事実。そのため時分針と連動したもうひとつの副時針を備えており、24時間ベゼルと合わせて時差のある二つの国の時刻を同時に確認できるように作られたものだ。そして1955年に発表され、当然のごとくパン・アメリカン航空にも納入されたはずである。しかしながら、このパンナムモデルについて詳細はほとんどわかっておらず、多くが謎に包まれていた。

 この個体についてクールオークションの林氏は取材時にこのように語っている。

 「パンナムモデルは『本当はなかったのではないか』と疑われるほどに、謎に包まれたモデルでした。私自身も長くこの業界にいますが、本物と確信できる個体を手にしたのはこれが初めてです。特徴的な白文字盤は光沢があり表面が艶やかなため、おそらく樹脂加工が施されているのでしょう。こうした樹脂加工は経年によって変色しやすいため、この個体のような焼けた風合いとなるのが自然なんです。また裏ブタの刻印もよく見ると手が込んでいます。一般的なプレス印ではなく、点字のように細かく打ち付けて刻印されているのです。この個体の前オーナーもパン・アメリカン航空のパイロットから直接譲り受けたということです」

 林氏は、本来は受け付けてくれないアンティークロレックスの修理・オーバーホールを直接依頼できるほど、スイス本国のロレックス・ジュネーブとの関係を構築した御仁である。

パンナムモデルを証明する裏ブタの刻印。裏ブタには“PANAM”のロゴとともに、“047-58”ナンバーが刻印されている。58本目という意味だろうか。またヒストリカルナンバーは“IV 56”となっており、1956年の4期製造分であることがわかる

 ただし、本国の場合は、もしも依頼したものがコピー品であったり、一部改修された個体の場合は一切受け付けない、そればかりか没収されるらしい。そのためこの記事の掲載に当たって今回あらためて確認したところ、このGMTマスターについても本国からの修理見積もりをすでにもらっているものだとのことだ。

 加えて林氏が言うには、だからと言って必ずしもすべてがこの個体のようにステンレススチール仕様×白文字盤という組み合わせなのかどうかは不明だとのこと。いずれにせよこの個体が確認されたことで謎の一端が明らかになったことは確かである。

GMTマスター。Ref.6542。SS(40mm径)。自動巻き(Cal.1065)。1956年頃製

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。