予算5万円前後! 復刻ミリタリーウオッチ系機械式腕時計3選

 筆者が編集長を務めるアンティークウオッチの専門誌“Low BEAT(ロービート)”でも、連載コーナーを設けて毎号取り上げるほど、ぜったい外せないテーマのひとつが“軍用時計”である。裏を返せばそれほど愛好家も多い。

 現在のようにコンピューターなど存在しない時代において、腕時計はミッションを遂行するための重要な道具であった。そのため数多くの時計メーカーは長年培った時計製造技術を生かし、競うように各国軍の軍用時計を開発した。特に第2次世界大戦は、その意味では腕時計の実用性を飛躍的に高めたと言われるほど、腕時計の進化の歴史にとって無視できない出来事だったと言える。

 軍用時計は、高い精度はもちろん、視認性、耐久性、防水性などが重視されて開発された。特に視認性を高めた文字盤デザインは軍用時計ならではの共通項も多い。そのひとつが太めのアラビア数字に太めの時分針という組み合わせだ。時間を知るという時計本来の機能を最大限に生かすための、見やすくわかりやすいデザインが採用された。

軍用時計を象徴するデザイン。太めのアラビア数字に太めの時分針で視認性が高められている。これはイギリス陸軍向けに製造された当時の個体。第2次世界大戦期(正確には1944年以降)に支給された(ロービート9号より)

 そのため一見シンプルで単調とも思えるデザインなのだが、実は過酷な状況下での実用性を追求して生み出された、かなり完成されたデザインとも言えるのだ。つまり、この古典的で男らしくそれなりに存在感があるデザインに惚れ込む人は多い。しかも不思議なことにファッション的にも合わせやすくけっこう使える。

 しかし、当時のオリジナルを楽しむには、さすがに70年以上も前のモノだけに少々ハードルは高い。そこで、普段使いに楽しめるものとして、かつての軍用時計をモチーフにしたデザインでもちょっとタイプの違う3モデルを紹介したいと思う。しかも、比較的に手の届く5万円前後の価格でありながらも、機械式自動巻きモデルを選んでみた。週末のファッションはもちろん、ジャケパンスタイルに合わせて楽しんでみてはいかがだろうか。

ブローバ|ミリタリー(A-15モチーフ)

Ref.96A245。SS(42mm径、ケース厚14.1mm)。3気圧防水。自動巻き。6万9300円

 近年、1970年代に生産されたシンボリックなモデルを復刻させて話題を集めているアメリカの時計ブランド、ブローバ。今回取り上げたのはそんな復刻モデルの最新作だ。

 アメリカ陸軍航空部隊の要請により第2次世界大戦中に開発され、当時ごくわずかな期間だけ製造されたという航空時計を再現したもの。実はこの当時のオリジナルは、ロービート誌の最新号No.17でも取り上げており、サイズこそ大きいがデザインは忠実に再現されている。

 最大の特徴は文字盤外周に二つの回転リングを装備している点だ。一見すると60年代のコンプレッサーダイバーにも見えるが、よく見るとリューズが三つある。これは中央で時刻調整、2時と4時位置のリューズで文字盤外周に設けられた独立した二つ(時と分)の回転リングをそれぞれ操作(2時位置で分リング)する。つまり、航空時計として経過時間を測定するため装備されたものだが、この計器然とした雰囲気が軍用らしい。

協力◎ブローバ相談室、TEL.0570-03-1390

マラソン|ジェネラルパーパス ウォッチ ブラック

ファイバーグラス混合樹脂ケース。38.1mm径(リューズ含む、ケース厚は12.6mm)。5気圧防水。自動巻き(日本製)。4万2900円

 1939年にカナダで創業されたマラソン社は、もともと各国の政府や軍に向けた時計を専門に手掛けていたブランドで、実際にカナダ、イギリス、アメリカなどの軍隊や沿岸警備隊、対テロ組織などに採用されていた。そのため納入されるときに出自がわからないようにブランド名を変えられることも多く、当時はその存在すらあまり知られていなかったのである。

 そんな同社の代表的モデルのひとつが、かつてアメリカ軍に納入されて湾岸戦争時に採用されたと言われる、通称“デザートストーム”のDNAを受け継ぐジェネラルパーパス ウォッチである。

 軍装備品としてMIL-PRF-46374G TypeII Class4に準拠した現物は現在も米軍のフィールド用に支給されており、このモデルも同じ規格で製造されていると言う。そのためバーインデックスには蓄光ではなく当時と同様にトリチウム管を採用する。

協力◎クロノワールド、TEL.03-6284-1770

アウトライン|ミリタリー Type 1940

Ref.YK19001-60。SS(38mm径、ケース厚13.10mm)。5気圧防水。自動巻き(日本製Cal.MIYOTA8245)。3万9600円

 最後に手前味噌ながら、筆者がプロデュースするブランド“アウトライン”から1本紹介したいと思う。

 この“ミリタリー Type 1940”は、アウトラインの2作目として2019年11月にリリースしたものだ。実は時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」では目標額779%を達成するなど、高い評価を得たモデルでもある。

 名前が示すように1940年代に作られた軍用時計を再現したもので、これは2種類ラインナップするうちのひとつである。1940年代にドイツ空軍向けに作られた航空時計(通称Bウオッチ)のデザインをベースに再現。当時は爆撃機のナビゲーター用だったためインデックスに1から12ではなく、秒を表す2桁の数字を大きくデザインしているのが特徴だ。

 自動巻きムーヴメントにはシチズン傘下であるミヨタ社の、Cal.8245を搭載。デザインはオリジナルに若干のアレンジを加えているが、1940年代ならではのクラシカルで落ち着いた雰囲気のためビジネスでもさり気なく着けて楽しめる。

現在は以下の専用サイトのみで販売
タイムギア ONLINE SHOP
タイムギア ONLINE SHOP Yahooショップ店

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。