アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
ワイラー
初期型オートマチック
今回紹介するのは、1930年代に誕生したユニークなワイラー製自動巻き腕時計だ。
何がユニークかと言うと、自動巻き機構の構造で、2重になった可動式の裏ブタをホッチキスのように上下に作動させることで内ブタのピンが押し込まれ、ゼンマイを巻き上げるという他に類を見ない独創的なものになっている。
この動作がホッチキスのようだということで、ずばりホッチキスの英名である“ステープラー”という愛称で親しまれているのだ。

【写真の時計】Ref.2200。クロミウム(22.5×35mmサイズ)。手巻き。1930年代製。22万円。取り扱い店/プライベートアイズ
黎明期ならではのユニークで面白い構造であるが、なぜ当時のワイラーは効率性に優れた回転式ローターを採用しなかったのだろうか。
理由は意外にも単純。
ロレックスがいち早く全回転式ローターの特許を取得していたためで、ワイラーを含めた他社は同様の構造を採用することができなかったのだ。
結果として、回転角度が制限されたバンパー式の自動巻きや可動ラグ式、そして今回紹介した裏ブタ可動式などのユニークな自動巻き機構が生まれたのである。
残念ながら、この裏ブタ可動式の巻き上げ効率はそれほど良くなかったようだが、ある程度のスペースを必要とする回転式ローターに比べてコンパクトな機構だったため、当時の流行の最先端であったレクタンギュラーケースにも納めることが可能だった。
またリューズは一般的なケース側面ではなく、裏ブタ側に設置されているため非常にすっきりとした見た目になっている。おそらく“手でゼンマイを巻き上げる必要がなく、時刻を合わせる手間も少ない”ということを強調するためのデザインであったと考察できる。
重厚感のあるレクタングルケースはまさに機能美にあふれており、アール・デコデザインのセクターダイアルが時代の様相を物語る貴重な逸品だ。自動巻き腕時計の歴史に残るユニークな機構をぜひ一度手に取ってもらいたい。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ