アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
IWC
ヨットクラブ
今回紹介するのは、1960年代に製造されたIWCのヨットクラブだ。
本シリーズは1967年に登場し、質実剛健な時計作りが特徴的なアンティークのIWCのなかでも、耐衝撃性と防水性を意識した設計が魅力的だ。その名が示すように、ヨット乗りのために設計された時計であったとされている。ムーヴメントをインナーケースで保持し、さらに5つのラバーパーツで宙づりにした耐衝撃構造が最大の特徴だ。

【写真の時計】IWC ヨットクラブ。Ref.R811AD。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.8541B)。1960年代製。38万8000円。取り扱い店/ジャックロード
【画像:特徴的な裏ブタやブレスレットのロゴを見る(全6枚)】
このようなラバー素材による耐衝撃構造は、優れた衝撃吸収性を備えていたため、IWC以外の時計メーカーでも採用されていたことが確認されている。筆者が確認している範囲では、スイスの時計メーカー“サーチナ”が1959年から製造を開始した“DS”シリーズ、そして旧チェコスロバキアの時計メーカー“プリム”が、チェコスロバキア軍に納入するため65年に製造した“オルリック(ORLÍK)”などが、同様にラバーによる耐衝撃構造を採用していた例として挙げられる。
アイコニックなCラインケースは、ジェラルド・ジェンタ氏によるデザインであり、同氏のデザイン哲学を肌で感じられる点も魅力のひとつだ。ケース全体には目立った打痕やキズもなく、良好なコンディションを維持している。防水性を高めるためにスクリューバックを採用しており、刻印のない14角形の裏ブタが、武骨でありながらも高級感をただよわせている。魚マークの入ったリューズもしっかりと残っている点にも注目だ。ただし、ケースのパッキン接触面の腐食やパッキンが劣化している可能性が高いため、現状では非防水として扱うことをおすすめする。可能であれば、裏ブタやリューズ内部のパッキン交換を行っておきたい。
ムーヴメントには、信頼性の高いCal.8541Bを搭載。1964年に開発されたCal.8541の改良版であり、IWCの特徴とも言える“ペラトン式”自動巻き機構を採用している。十分な巻き上げ効率と耐衝撃性が期待でき、アンティークウオッチ初心者にとっても安心できる性能を備えたムーヴメントだ。
さらに、先に述べたラバーパーツによる耐衝撃構造に加え、精度を司るテンプの軸を保護するインカブロック機構や、自動巻きローターの軸の破損を防ぐ地板など、ムーヴメント各所にも耐衝撃性を高める工夫が随所に施されている。特に、自動巻きローターの軸を支えるプレートは、曲がりくねった形状によって板バネのようにたわむことでショックを吸収し、ローター軸の破損を防ぐという構造を採用。ムーヴメント設計者であるアルバート・ペラトン氏の設計の優秀さが垣間見える部分だ。
初めてアンティークウオッチの購入を検討している人や、日常使いできるアンティークウオッチを探している人には、今回取り上げたような耐衝撃性を備えたモデルをぜひおすすめしたい。アンティークの機械式腕時計である以上、丁寧に扱うことは大前提だが、日常生活での使用には十分な耐久性を備えている。華奢で壊れやすい印象をもたれがちなアンティークウオッチだが、優れた設計のムーヴメントはいまなお現役で稼働し、十分な性能を発揮してくれるはずだ。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎ジャックロード
