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【話題の国産ウオッチを本音レビュー|Vol.6】シチズン チタニウム技術50周年記念フラッグシップモデル サテライトウエーブGPS F950

 ステンレススチールの2倍の強度で、錆びにくいという特性を持つチタニウムは、時計ケースとしては最適な素材のひとつだ。比重はステンレススチールの6割ほどと軽く、人肌で触れても被膜がカバーするので金属アレルギー体質の人も使いやすい。素材としていいことづくめだが、一方でステンレスに比べて素材自体の粘性が高く加工が難しい点や表面が軟らかくキズが付くなどといった弱点もある。
 また腕時計にふさわしい光沢を出すには表面のコーティング加工が必須だが、この加工が難しく高コストになりがちという弱点もあった。そのためチタンケースは高級モデルの証しでもあったのだが、最近では成型やコーティングの加工技術が急速にアップして、リーズナブルの価格帯のモデルにもチタニウムを採用したモデルが増えてきている。

 チタニウムを積極的にケース素材として取り入れてきたのは、実はスイスよりも日本のメーカーだった。特にシチズンはチタニウムを押し出した製品を早くからリリースしていたメーカーで、世界初のチタニウムケースモデル“X-8 コスモトロン・クロノメーター”を1970年に製品化している。X-8のケースに使われたチタニウムは99.6%という高純度なもので、ムーヴメントにはクロノメーターを搭載しており、かなりの高級機という位置づけだった。

1970年に世界ではじめてチタニウムウオッチの市販化を実現したシチズンのX-8 コスモトロン・クロノメーター。当時の価格は4万5000円で、販売数は2000本未満だった

 

 世界的にも宇宙計画が推進されていた時代で、チタニウムはロケットにも使われる夢の素材として脚光を浴びていただけに、メーカーとして技術力をアピールする意味合いも大きかったのだろう。2000年にはデュラテクトと呼ばれる表面加工技術を導入したチタニウムモデルを採用。本作はステンレススチールの5倍以上という硬度をもち、購入時の輝きを失わない素材として、シチズンの大きなセールスポイントとなった。現在でもシチズン独自の技術として重要な意味をもっている。

 初代チタニウムウオッチのX-8から50周年を迎え、シチズンは記念モデル“サテライト ウエーブ GPS F950”をリリースした。シチズンが現時点で到達している最高レベルのチタニウム加工技術を惜しみなく投入した記念碑的モデルといえよう。

■Ref.CC4025-82E。スーパーチタニウム(47.5mm径、14.7mm厚/設計値)。10気圧防水。クォーツ(Cal.F.950、光発電エコ・ドライブ。世界限定550本。55万円

 

 ぱっと見て目が行くのはエッジのシャープさだ。ベゼルの際がきっちり立っているのも印象的だが、さらに強烈なのがブレスレットのデザイン。山型コマのサイドをカットする多面加工で、立体的で複雑な造形美を生み出している。チタニウムでもここまで複雑なフォルムを生み出せるという自信を強く感じさせるデザインだ。

 渋みのあるブラックのデュラテクトDLCと、ベゼル部分などに使われたデュラレクトサクラピンクのトーンも相まって、従来のチタニウム時計にはない面白い表情を生み出している。デザインは宇宙をコンセプトにしているとのことだが、6つのパーツを組み合わせた多層構造の文字盤を合わせたことで、立体的なテイストをスポーティブにまとめており、チタニウムウオッチの新しい可能性を感じさせる。持った感じもチタニウムにしてはケースサイズゆえかややずっしりしており、重厚さと高級感を強く打ち出した感がある。

 

 搭載されているCal.F950は、シチズンのエコ・ドライブGPS衛星電波時計としては最上位のムーヴメント。フル充電で最長5年のロングランを誇り、GPS衛星電波も最短3秒で受信するという世界最速の性能を誇る。高速モーターにより、時刻合わせ時の針も1時間分を1秒足らずで動かすほど。チタニウムケースとともにシチズンの技術の根幹を成す光発電エコ・ドライブを搭載していることで、実用的にもハイレベルな時計に仕上がっている。三つのインダイアルをあしらった文字盤は精悍さをうまくアピールしており視認性も良い。

 今回のチタニウム50周年を記念したモデルは、コズミックブルー コレクションとして“アテッサ”“エクシード”“クロスシー”といったシチズンの各ブランドからもリリースされているが、このサテライト ウエーブはそれらの上位にあるモデルだけに完成度は群を抜いている。
 チタニウム外装の美しさだけでなく、機能面でもシチズンのフラッグシップともいえる技術を全面に投入しており、アニバーサリーモデルにふさわしい贅沢な仕様だ。価格は55万円とやや高めだが、これだけ複雑なデザインをきちんと作り込んでいることを考慮すると、まずまず納得のいく価格帯だろう。550本限定というプレミアム感もあって、すでに店頭ではかなり人気を博している模様。都内主要ショップではまだその姿が拝めるので、ぜひ1度は現物の質感をチェックしてみてほしい。

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部

 

【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室 TEL.0120-78-4807
https://citizen.jp

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