SDGs意識の高まりと同時にデザイン面の自由度が後押し
長年国産時計メーカーの独壇場ともいえたソーラー腕時計だが、驚くことに近年になってスイスの有名高級時計ブランドが商品化。そのひとつカルティエは2021年にリバイバルされたタンク マストに通常の自動巻き、クォーツに加えてソーラーもラインナップに加えた。次いで23年にはタグ・ホイヤーがアクアレーサーのソーラー仕様を発売するなど、両社ともにレギュラーコレクションとして販売している。

カルティエのソーラー駆動モデル「タンク マスト ソーラービート(TM)」
これについてはSDGs(持続可能な開発目標)促進の一環という見方もあるかもしれないが、やはりいちばんは先述したように技術革新によって文字盤デザインの制約が大幅に軽減されたことが大きいのだろう。現にカルティエのタンク マスト ソーラービート(TM)は何と文字盤に金属を使い、しかもその下にソーラーパネルを設置、カルティエ時計の象徴でもあるローマ数字のインデックスをくり抜いて、そこから光を集約して電源を確保しているというのだ。かつては文字盤の透明度を高めて全体で光を受ける必要があったことを考えると、発電効率がいかに高いかがわかるだろう。
ただ、カルティエはそれだけでは終わらなかった。タンク マスト ソーラービート(TM)を2024年には早くもマイナーチェンジ。人間の目では判別できないような超微細な穴を文字盤全体に無数に設けることで発電効率を大幅にUPしたのである。
ソーラーセルの進化に加えて近年はパワーセーブ機能もかなり進化しているようだ。ソーラー腕時計は電池交換が不要といっても、太陽電池(ソーラーセル)で作られた電気エネルギーを蓄電する二次電池(バッテリー)が存在する。これには寿命(一般的には7〜10年)があるため、長年愛用する場合はいずれ交換が必要となる。パワーセーブ機能は光が一定時間当たらないと時計が止まって節電状態になり二次電池の消耗を軽減してくれるというわけだ。
そんな二次電池(バッテリー)の寿命を15年と謳っているのがタグ・ホイヤーである。実のところ搭載するソーラームーヴメントはシチズン傘下のムーヴメントメーカー“ラ・ジュー・ペレ”がタグ・ホイヤーと協力して開発したものである。このように、まだ一部とはいえ近年スイスの高級時計ブランドがソーラー腕時計分野に参入してきた背景には、やっぱり長年ソーラー腕時計を作り続けてきた日本メーカーのノウハウと高い光発電技術をもつ優秀なサプライヤーの存在が大きいと言えるのだ。
さて、今回最初に掲載した時計はそんなタグ・ホイヤーが新たに発表した “フォーミュラー1 ソーラーグラフ”だ。今年からF1の公式タイムキーパーを務めることを記念して1986年に発売されたフォーミュラー1 を当時の35mmから38mm径にサイズアップしつつ、かなり忠実に再現している。しかもあえてソーラー駆動という点も時代を表していて新しい。全9種類がラインナップしており写真のモデルはリミテッドエデションで発売は10月とのこと。価格は予価26万9500円だ。
【画像】世界初のシチズン製ソーラー時計ほか写真をさらにチェック!
菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa