アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
キングセイコー
懐中時計
今回は国産時計メーカーがスイスの時計産業に対抗するために開発を進めていたハイビートのムーヴメントを搭載した時計を紹介する。
そもそもハイビートと呼ばれるムーヴメントは、機械式腕時計の精度をつかさどるテンプというパーツが、一般的に毎時2万8800振動(毎秒8振動)以上のペースで動くもののことを指し、それ以下の振動数のものをロービートとして区別している。当時のセイコーはスイスの天文台コンクールへの参加をとおして、振動数の向上、つまりハイビート化こそが時計の高精度化につながるものだと確信していたのだ。

【写真の時計】キングセイコー 懐中時計。Ref.45-2000。SV(43mm径)。手巻き(Cal.4500A)。1969年頃製。11万円/BQ
ここで取り上げるのは、亀戸の第二精工舎が製造したハイビートの手巻きムーヴメント、Cal.4500Aを搭載した懐中時計である。
当時、手巻き式のハイビートムーヴメント自体が世界的にも珍しかったが、なかでも毎時3万6000振動(毎秒10振動)で量産されていた手巻きムーヴメントは、今回紹介するセイコーのCal.45系と、レディース用のCal.1964、諏訪精工舎のCal.5740Cなど、決して多くは存在しなかった。
既存のムーヴメントをベースにハイビート化していた諏訪精工舎のCal.5740Cと比較すると、Cal.4500Aは斬新な機械設計を取り入れており、歯車の数や特殊なレイアウトなどから、精度を出すことに特化した設計のムーヴメントであることがうかがえる。秒針を止めるハック機能も備えられているため、精度の高さをいかんなく発揮できるだろう。
もともとはグランドセイコーやキングセイコーといった高級モデルに搭載されていたムーヴメントだが、銀無垢ケースに納められた懐中時計モデルも一定数が販売されていたようだ。一見するとごく普通の懐中時計に見えるが、実際には高精度ムーヴメントを搭載しており、“羊の皮をかぶった狼”のような凄みを備えている。
銀無垢ならではのずっしりとした重量感は、ポケットから取り出すたびに特別な存在感を放ち、この懐中時計がただの実用品ではないことを感じさせてくれる。銀無垢ケースであるため、酸化による変色は見られるものの、それがかえって落ち着いた風合いを醸し出しており、長く使い込むほどに味わいが増すのも魅力のひとつだ。セイコー純正のシルバーチェーンとレザーカバーが付属している点にも注目したい。
【LowBEAT Marketplaceでほかのセイコー製時計を探す】
文◎LowBEAT編集部