アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
グラスヒュッテ
スペシマティック
今回紹介するのは、現在のグラスヒュッテ・オリジナルの前身とも呼べる、グラスヒュッテ・ウーレンベトリーベ(GUB)が1960年代後半から70年代後半頃に製造したと思われるスペシマティックだ。
どこか安っぽさを感じさせる金張りのケースや、シンプルなサンレイ仕上げの文字盤、スナップバック式の裏ブタなど、一見すると現在のグラスヒュッテ・オリジナルからは想像しにくい、質素な仕上がりに見えるかもしれない。しかし、当時のGUBは共産圏に属していたため、西側諸国で繰り広げられていた開発競争の影響を受けにくく、独自の設計思想によるムーヴメント開発が進められていたのだ。

【写真の時計】グラスヒュッテ スペシマティック。GF(35mm径)。自動巻き(Cal.75)。1960~70年代製。11万円。取り扱い店/喜久屋商事 時計部
GUBは、1951年に創立された旧東ドイツ地域の時計メーカーを傘下に収めるドイツ民主共和国の国営時計製造会社であった。しかしその後、89年に起こったベルリンの壁崩壊に伴って民営化。グラスヒュッテ・オリジナルとして再スタートした。
そして、この時計が製造された時代背景を物語るように、文字盤の6時位置には“MADE IN GDR(German Democratic Republic)”の表記が印刷されている。
時計本体のコンディションに注目すると、ケースエッジのメッキが剥がれ、やや使用感を感じる状態だが激しい損傷は見られない。柔らかみのあるクッション形のケースは、どこか可愛らしい印象を受けるデザインだ。文字盤には目立ったキズや変色は見られず、印刷の剥がれなども見られない。
ムーヴメントにはデイト機能を備えた26石のCal.75を搭載。簡素な仕上げのムーヴメントだが、当時の自動巻きとしては画期的な設計が盛り込まれていた。スイスや日本、ロシアの時計とも異なる独特の設計が魅力的なムーヴメントだ。
また、ドイツ語による表記がびっしりと刻まれた裏ブタの端には、交差するツルハシとハンマーのシンボルが刻まれている。“25”という数字も見られることから、炭鉱労働者の勤続25周年記念として贈られたものではないかと推察される。
今回紹介したグラスヒュッテに限らず、旧共産圏で製造された時計の多くは、西側諸国のような開発競争や高価な素材を用いた製造が難しかった一方で、制約の中での創意工夫が凝らされた、非常に魅力的なモデルが数多く存在している。そのため、仕上げにややチープさがあるモデルも見受けられるが、その内側に秘めたムーヴメントは独創性にあふれており、“時計界のガラパゴス”と呼ぶにふさわしい存在だと言えるだろう。
そんなドイツ時計産業の歴史を感じられる時計として、注目したい1本だ。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎喜久屋商事 時計部