アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
ダンヒル
ミレニアム クロノグラフ
今回紹介するのは、1990年代にダンヒルが発売していた、“ミレニアム”のクロノグラフモデルだ。アンティークウオッチと呼ぶには新しいかもしれないが、往年の名作クロノグラフキャリバーを搭載したマニア必見の1本だ。
イギリスの老舗メンズラグジュアリーハウスとして名を馳せ、バッグや革小物、シューズ、アクセサリーまで幅広く手掛けているダンヒルだが、古くから腕時計の取り扱いも行っており、なかにはジャガー・ルクルトが製造を担ったモデルも存在していた。
ダンヒルのミレニアムは、1990年代に発表された腕時計コレクションであり、流線形のケースと専用のステンレスブレスレットが装着されたモデルであった。当時流行していたドレスウオッチのデザインが色濃く反映されており、ステンレススチールとゴールドメッキのコンビカラーを生かした、ラグジュアリーなデザインが特徴的だ。

【写真の時計】ダンヒル ミレニアムクロノグラフ。SS(38mm径)。手巻き(Cal.1873)。1990年代製。15万8000円。。取り扱い店/米田屋
基本的にはクォーツの3針モデルを中心としたシリーズであったが、ごく少数ではあるもののETA2892を搭載した自動巻きや、ゼニスのエル・プリメロを搭載した自動巻きクロノグラフ、そして今回紹介する手巻きクロノグラフなど、機械式ムーヴメントのモデルもラインナップしていた。
手巻き式の本個体はムーヴメントにレマニア製のCal.1873を搭載。オメガのスピードマスターにもCal.861として搭載されており、カム式のシンプルな動作制御とブレーキレバーを組み合わせた、堅牢な設計が光る名作ムーヴメントだ。簡素な仕上げで搭載されることの多いムーヴメントだが、本個体では細やかな筋目地上げと面取り加工が施されており、スケルトン仕様の裏ブタから歯車やレバーの動きを楽しむことができる。90年代の時計でありながらも、60年代のアンティークウオッチと同様の操作感を味わえる点が魅力と言えるだろう。ただし、本個体は湿気などにより、パーツの一部にサビが生じている点は留意しておきたい。
繊細なヘアライン仕上げが施されたケースは、凸形のラグに向かってシェイプした造形となっており、この時計に唯一無二の個性を与えている。らせん状に溝が刻まれたリューズも、この年代のダンヒルならではの特徴だ。そして、特徴的なブレスレットのディテールに注目すると、その緻密な造形に驚かされることだろう。コマ同士はヒンジのように噛み合うことで接続され、裏面の溝に仕込まれたストッパーピンで固定を行っているのだ。
さらにバックル部分に目を向けると、折り畳み機構はプレス加工のよる年代相応の仕上がりであるものの、固定部分には無垢材から削り出された大型パーツのプッシュボタンと爪が用いられている。これはサビによる固着や、経年による破損・脱落を防ぐための設計と思われ、重厚な時計本体をしっかりと支えるにふさわしい作りとなっている。このような細部への手間のかけ方から、ダンヒルの腕時計に対するこだわりと老舗ブランドとしてのプライドが感じられる。
ケースサイズは38mm径と比較的コンパクトであるため、小振りなアンティークウオッチを好む愛好家にとってもおすすめできる。現状ではブレスレットの腕回りが最大17cmであるため、購入を検討している人は要確認だ。
質感の良いラッカー仕上げの艶やかな白文字盤と、ローマンインデックスの組み合わせが90年代の高級時計らしさを感じさせるポイントと言える。
信頼性が高く、技術的にも成熟したムーヴメントと、作り手のこだわりが感じられる優れた外装部品を兼ね備えた90年代の時計は、価格とクオリティのバランスに優れた“狙い目”の存在であり、初めてポストヴィンテージ世代の時計に触れる人にとっても、安心感のある選択肢となるはずだ。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎米田屋
