アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
ワイラー
ダイバー クロノグラフ
今回紹介するのは、1960年代後半から70年代頃にかけて製造された、ワイラーのダイバークロノグラフだ。
コアなアンティークウオッチ愛好家であれば一度は耳にしたことがあるかもしれないが、一般的な知名度はほぼ皆無と言っていいほどのマイナーブランドである。
しかし、ワイラーは機械式時計における“耐衝撃性”という課題に対し、独自の機構を生み出してきた実力派メーカーとして、時計史の中に確かな足跡を残している。
ワイラーは1896年、スイス・バーゼルにてポール・ワイラーによって設立された。1927年には、機械式時計の心臓部とも呼べるテンプの軸の破損を防ぐ独自の耐震装置“インカフレックス”を発明し、一躍その名を知られる存在となった。同社はこの機構をETA社などから供給されたエボーシュムーヴメントに搭載することで、市場での評価と人気を高めていったとされている。

【写真の時計】ワイラー ダイバー クロノグラフ。Ref.0-1502/7。SS(37mm径)。手巻き(Cal.バルジュー72C)。1960年代製。59万8000円。取り扱い店/WatchTender銀座
【画像:裏ブタの刻印や渦巻き状のインカフレックスを確認する(全6枚)】
今回紹介する個体は、回転ベゼルを備えた防水ケースに、手巻きクロノグラフの名機、バルジュー72を搭載したスポーティな構成が魅力の1本だ。ブラックダイアルには赤やオレンジの差し色が映え、ロレックスのポール・ニューマンを思わせるインダイアルの目盛り表示が個性を主張する。重厚なステンレススチール製ケースに12角形のねじ込み式裏ブタ、樹脂(おそらくベークライト)製の回転ベゼルなど、目の肥えたアンティークファンも思わず唸るディテールが随所に盛り込まれている点も見逃せない。さらに裏ブタには、インカフレックスを象徴する渦巻き状のテンプや、防水性を示すかのような魚のマークが刻印されており、どこか遊び心を感じさせる意匠も印象的だ。
そして、本個体最大の特徴として挙げられるのが、搭載するムーヴメントであるCal.バルジュー72に、ワイラーが独自開発をした耐震装置であるインカフレックスを採用している点だ。
インカフレックスは、通常の耐震装置とは一線を画した、時計の精度をつかさどるテンプ自体に耐衝撃構造を組み込んだ仕組みだ。一般的なテンプでは、2~4本の直線的なスポーク(アミダ)でテンワを支え、テンプの軸受け部分に耐衝撃用のバネを組み込んだ構造が採用されているが、インカフレックスではスポーク自体を渦巻き状の弾性を持つ形状とすることで、衝撃を受けた際の力を逃がし、テンプの軸(天真)が折れるのを防ぐ構造となっている。次ページに添付したムーヴメント内部の画像においても、この渦巻き状のテンプのスポークを確認することができる。
一見すると非常にシンプルな仕組みであるため、強度に不安を覚える人もいるかもしれない。しかし、56年には、フランスのエッフェル塔の頂上からワイラーの時計を投げ落とすという衝撃的な公開実験を行い、見事に正常な動作を維持してその堅牢性を証明した記録も残されている。
また、本個体ではインカフレックスに加え、テンプの軸部分に分解掃除や注油といった整備性を高める目的からか、3点式の耐震装置が補助的に備えられている点にも注目したい。耐震性能だけでなく、メンテナンス性まで考慮された設計からは、ワイラーというブランドの技術者としての誠実さがうかがえる。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎WatchTender銀座

