アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
ミドー
マルチフォート
1934年にミドーから登場した名作”マルチフォート”シリーズは黎明期であった自動巻きのムーヴメントを防水ケースに搭載した実用時計で、防水性能以外にも耐磁、耐衝撃性能を備えた高性能な腕時計として同社の歴史を支えてきた。そんなマルチフォートシリーズだが、その人気の高さから当時多くの派生モデルが展開されており、そのなかには今回紹介するような手巻きの角形モデルも生産されていた。

【写真の時計】ミドー マルチフォート。SS(23×32mmサイズ)。手巻き(Cal.800C)。1940年代。29万7000円。取り扱い店/プライベートアイズ
本作にはFB(フランソワ・ボーゲル)社製のサイドスライド式防水ケースが採用されている。FB社は数多くの防水ケースを手掛けていたことで有名なサプライヤーであり、パテック フィリップやロンジン、モバードなど、数多くのメーカーに採用されてきた実績がある。そういった歴史的価値から、いまなおアンティーク愛好家からの人気が高いケースなのだ。特に、この角形ケースはパテック フィリップも採用した実績があるため、市場での評価が高まっている。
この角形ケースは、固定用バーをケース側面に設けた溝に差し込んで、ケース本体と裏ブタを密着させる構造であった。この際、内側のパッキンが圧縮された状態で固定されるため、角形でありながらも防水性を確保できたというわけだ。
角形ケースの場合、風防やパッキンに均一な圧力をかけてケースに密着させることが困難であったため、様々なブランドが試行錯誤を繰り返していたとされる。このFB社製のサイドスライド式防水ケース以外にも、4本のネジを使用して均等な圧力で固定するクラムシェルケースと呼ばれる構造の角形防水ケースが存在していた。
角形ケースは直線を生かしたシャープなデザインで、いま見ても新鮮な印象を与えてくれる。角形の風防も、他社では見られないような立体感のある造形が魅力的だ。文字盤はシルバーベースに外周と内周にホワイトサークル、飛び数字に夜光入りのアルファ針を組み合わせた、この時代ならではのデザインが素晴らしい。内周のミニッツサークルのおかげで、角形時計でありながらも優れた判読性を確保している。エッジの立ったケースと柔らかな色合いの文字盤がドレッシーな雰囲気でありながらも、肉抜きされた秒針にまで夜光が入れられているディテールからはミリタリーテイストを感じられる。風合いある経年変化と角型防水ケースならではの重厚感が素晴らしいアンティークテイストを魅せた逸品だ。ムーヴメントには、手巻き式で耐震装置を備えたミドー社製のCal.800Cを搭載している。
【LowBEAT Marketplaceでほかの手巻き時計を探す】
文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ