アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
シチズン
オートデーター ユニ
今回紹介するのは、シチズンオートデーター ユニである。シチズンが製造していた自動巻き腕時計“ジェット”と同時期に登場した時計だが、ジェットの圧倒的知名度の高さと、オートデーター ユニ自体の流通量が少ないこともあって、アンティークシチズンのなかでも存在感の薄いシリーズだ。

【写真の時計】SS(36.5mm径)。自動巻き。1965年頃製。29万7000円。取り扱い店/Watch CTI
そのなかでも、今回紹介する個体はスーパーコンプレッサーケースによく似た防水ケースが採用された珍しいモデルだ。シチズン独自のパラウォーターという防水機構が採用されたこの時計は、当時のジェット機の油圧機構パッキンに採用されるほどの耐圧性能をもつOリングを、リューズや裏ブタパッキンとして応用し、国産時計としては初めて本格的な防水機能を実現していた。
そしてこの防水性能をアピールするために、当時のシチズンは自動巻き防水時計の“オートデーター パラウォーター”をブイ(浮き)につけ、太平洋や日本海を横断させるという大胆なキャンペーンを実施していたのだ。実際に、時計は脱落していたものの、アメリカのオレゴン州にブイが漂着していたことが確認されている。このほかにも、対馬海流に乗せて流した時計は青森県や北海道、鹿島灘にも漂着するなど、キャンペーンは大成功を収めたとされている。今回紹介するモデルとは異なる時計ではあったものの、このPR効果は絶大で、シチズン製腕時計の技術力と信頼性を示したのであった。この影響もあってか、当時海やプールで時計を着けて泳ぐことが流行したというから驚きである。
しかし、パッキンの経年劣化による防水性能の低下や、防水性能を過信しすぎた使用方法によって、現在の市場で流通している個体のなかには水没してしまったことがあるものも少なくない。その点、今回紹介する個体はほとんど使用されていなかったのか、極めて良好なコンディションを維持しており、夜光塗料やインナーベゼルの塗料も変色せずに残っている。さらに、オリジナルのステンレススチール製ブレスレットとタグが付属している点は見逃せない。
デザインに注目すると、コンプレッサーケースに似たインナーベゼルを備えており、シチズンが海外のダイバーズウオッチからインスピレーションを受けていたことが伝わる。また、シルバーのサイレイ文字盤とブラックのインナーベゼル、筆記体のロゴが採用され、当時の国産時計と比較するとスタイリッシュなデザインに仕上がっている。そして、防水性能を象徴するかのように配された“40m”の青い文字が、どこか遊び心を感じさせてくれる。
この1本は、まさに“国産防水時計の夜明け”を告げる先駆的存在と言えるだろう。海外製品の影響を受けながらも、日本独自の技術と発想によって完成されたモデルとして、後の国産ダイバーズウオッチ開発にも大きな影響を与えたのではないだろうか。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎Watch CTI