アンティーク時計専門サイト「LowBEAT Marketplace」には、日々、提携する時計ショップの最新入荷情報が更新されている。
そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
シチズン
クロノメーター
今回紹介するのは、1962年に当時のシチズンの技術力を集約したモデルとして発売された、シチズンクロノメーターだ。当モデルはシチズンがその威信をかけ、1本1本、職人が手作業で仕上げるなど採算を度外視して製造されたといわれ、販売価格は2万8000円とグランドセイコーの2万5000円よりも高額だった。
力強さを感じさせる太いラグやインデックス、時分針がこの時計の特別さを物語っている。裏ブタには、翼を広げた鷲が刻印された大きなメダリオンがはめ込まれ、グランドセイコーの獅子マークに負けない、圧倒的なオーラを放っている。シンプルでありながらも、荘厳な雰囲気を感じさせる外装デザインに注目だ。

【写真の時計】シチズン クロノメーター。GF(37.2mm径)。手巻き。1960年代製。35万2000円。取り扱い店/セコンド
金張りのケースに注目すると、年式相応の傷や変色が見られるものの、目立った剥がれや打痕は見られず、比較的良好なコンディションを保っている。文字盤については、針の根元や外周部にシミや変色が見られるものの、大きな変色は見られない。
洗練された外装デザインはもちろんだが、この時計最大の魅力は、精度を追求するなかで試行錯誤を重ねた、大径のムーヴメントではないだろうか。精度を司るテンプと、ゼンマイを納める香箱車を最大化するために、従来のムーヴメントとはまったく異なる設計が数多く採用された。
そのひとつの例として、2番車の位置を変更した設計が挙げられる。通常では、ムーヴメントの中心位置に配され、分針の役割をつかさどる2番車をオフセットさせたスペース効率に優れる設計が採用されており、テンプと香箱車を最大化しつつ、主要部品を納めることに成功している。加えて、シチズンではこのモデルを製造する以前にも、1958年登場の“デラックス”にこの設計を採用していたため、その利点を最大限に活用したムーヴメントを開発できたのだ。
また、2番車をオフセットさせる輪列設計は、多くのメーカーがムーヴメントの薄型化や高精度化に際して採用しており、機械の厚みを減らすだけでなく、パーツレイアウトの自由度が上がるという利点もあった。分針への動力伝達の方式に違いこそあるものの、他社製品では、ゼニスのCal.135やセイコーのゴールドフェザー、セイコー56系、ユニバーサル・ジュネーブのマイクロローター搭載機全般、ETA2824やETA2892などがこの設計を採用していた。
これに加え、テンワの下にガンギ車を潜り込ませるなどの設計を採用したことで、このムーヴメントでは他に類を見ない大型のテンプを搭載することが可能になったのだ。
このように、スペース効率を極限まで追求し、精度を司る部品を徹底的に大型化した結果、シチズンクロノメーターは圧倒的な精度を実現したムーヴメントを手に入れたのだ。精度はもちろんのこと、直線的に分割されたブリッジや、筋目仕上げが施された大径ムーヴメントの美しさも、この時計の大きな魅力だ。国産時計好きなら、一度は手にしてみたい逸品と言えるだろう。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎セコンド