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【使われた形跡がない?】諏訪精工舎の勤続記念として贈られた69年製キングセイコーにみる複雑な製品ラインナップ|菊地吉正の時計考

去る7月12日のコラムで勤続25周年記念として東芝商事の社員に贈られたグランドセイコーを取り上げたが、今回はそんなグランドセイコーを開発した諏訪精工舎の社員に贈られた勤続25周年記念モデルを紹介する。ただ贈られたのはグランドセイコーではなくキングセイコー。セイコーのヴィンテージに興味を持ち始めた方なら「キングセイコーは第二精工舎じゃないの?」と疑問を持たれるかもしれない。そこで今回はこの点を整理してみたい。

ということで第二精工舎と諏訪精工舎の歴史を振りかえる。

セイコーのルーツと言える1881年に創業の服部時計店は、92年に設立した時計製造工場“精工舎”で掛け時計の製造を開始。その後1913年に国産初の腕時計“ローレル”を完成させる。ただ時代は懐中時計から腕時計へ。精工舎は37年に腕時計部門を第二精工舎として独立させ東京の亀戸に本社工場を構える。これが現在のセイコーインスツル(略称SII)である。そしてこの第二精工舎(亀戸)が61年に高級ラインとして発売したのがキングセイコーだ。

その第二精工舎(亀戸)は、戦禍がひどくなった1943年に長野県諏訪市に工場を疎開させ第二精工舎諏訪工場を設立。そして、戦後の混乱も落ち着いた50年代後半になって、この地に創業(42年)しサプライヤーとして部品製造と組み立てを行っていた大和(ダイワ)工業にその諏訪工場を譲渡。大和工業は新たに諏訪精工舎(現在のセイコーエプソン)として59年に創業を始める。グランドセイコーはこの諏訪精工舎が翌年の60年に販売した最高級ラインである。

つまり59年から第二精工舎(亀戸)と諏訪精工舎という、独立して製品開発を行う二つの製造拠点が存在し、この2社は競うように様々な製品を開発した。そして67年にはスイスの「ニューシャテル天文台クロノメーター・コンクール」で、機械式腕時計の部門で、それぞれ2位(第二精工舎)と3位(諏訪精工舎)に入賞する。この2社が競合することで戦後わずかな期間で悲願だったスイスの技術レベルに到達し、ひいては追い越すまでに成長したと言っても過言でない。ただこの2社の存在がヴィンテージセイコーの歴史を複雑にしている要因でもある。

実はグランドセイコーは諏訪精工舎、キングセイコーは第二精工舎とハッキリと棲み分けされていたのは1967年頃まで。勤続記念モデルのベースとなったこのキングセイコー初の自動巻きハイビートモデル56KSは諏訪精工舎製なのだ。

これは60年代後半に実施された製品ラインナップの大幅な変更が背景にあるようで、67年には第二精工舎からも、同社が初めて手がけたグランドセイコーこと44GSがリリースされている。つまり60年代後半からはグランドセイコー、キングセイコーともに、製造元が違う二つが併売されていたというわけだ。

さてこの個体だが、驚くことに当時の純正BOXにタグや説明書などが付属している。そればかりか革ベルトや尾錠も純正。おそらくは会社から贈られた後に記念として大事に保管されていたのだろう。それほど使った形跡が残っていない。まさに貴重なコレクションアイテムといえる貴重な代物なのである。

【画像】諏訪精工舎勤続記念を示す裏ブタなど細部をチェック

キングセイコー 56KS(諏訪精工舎勤続記念)
Ref.5625-7000。SS(36.8mm径)。自動巻き(Cal.5625)。1969年製。36万3000円
協力◎JAPAN VINTAGE WATCH SHOP
https://lowbeat.jp/jvw-shop/year/1960/lb-260051/

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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