【話題の国産ウオッチを本音レビュー|Vol.7】トゥルーム Lコレクション ブレイクライン

 機械式とクォーツの二大駆動方式がシェアのほとんどを占める時計業界において、イノベイティブな新機構の開発は、多くの時計メーカーが目論むところだ。しかし機械式やクォーツの完成度を凌駕するほどの新機構はなかなか生まれ得ず、割りに合わない巨額な開発費もあって、実際にはなかなか実現しない。
 そこに挑んだのが日本のエプソンだ。“スイングジェネレータ”と銘打った新機構は、クォーツと自動巻き発電機構を組み合わせたハイブリッドな構造で、そのユニークさから発表されると同時に高い注目が集まっている。

 PC用プリンタなどで有名なエプソンだが、そのルーツは時計部門にある。それも精工舎の流れを汲んだ超名門だ。精工舎は国産初の懐中時計を生産した服部時計店の製造部門であり、戦前から日本の時計製造会社として頂点にあった。その精工舎が腕時計部門を第二精工舎として分社し、さらにその第二精工舎が戦時中に疎開のため長野県の諏訪に工場を設立。地元で(第二精工舎の)時計部品加工を行っていた大和工業が、この第二精工舎諏訪工場の営業譲渡を受け諏訪精工舎となり、後のエプソンにつながっていった。

 当時より優れた開発者と熟練の時計職人を多く抱えていた同社の製品力は頭ひとつ抜けており、60年には世界でもトップクラスの精度を誇る初代グランドセイコーを生み出している。また69年にはクォーツムーヴメントの開発にも成功し、これが世界最初の市販クォーツ腕時計として製品化されている。

 今回の新機構スイングジェネレータは、“トゥルーム”というブランドのモデルに搭載されている。トゥルーム=TRUMEとは、TRUE(真実)+ME(自分)の造語で、「真の自分を映し出す」との願いを込めて2017年にエプソンが新たに立ち上げたブランドだ。様々な製品を世界に先駆けて製造してきたエプソンの遺伝子を凝縮し、それをアナログのダイアルで表現するというコンセプトをもっている。新しい機構を搭載するにふさわしいブランドといえる。

■Ref.TR-ME2009。TI(45.4mm径)。10気圧防水。スイングジェネレータ(自動巻きクォーツ)。9万9000円

 スイングジェネレータの中味を詳しくチェックしていこう。動力源は自動巻きの機械式時計と同様に、時計をつけている人の腕の動きを利用する。そのためにムーヴメントにはローターが搭載されている。ローターの動きを利用して生まれた電力はリチウム電池に蓄電され、この電力でクォーツ制御されたモーターを動かすという仕組みになっている。つまり機械式的な部分は発電に使うローター部分のみで、実際の駆動はクォーツ式という折衷型になっているわけだ。

スイングジェネレータのメカニズム

 メリットは、ソーラー発電と異なり腕につけて使っていれば暗闇でも発電することができるということ。そして電池交換も不要になるので、メンテナンス性とランニングコストの面でも有利だ(ただし長期的には二次電池交換は必要になる)。半年間使用しない場合には、針の動きを一時的に止めて節電し、最長6カ月まで電池持ちを延ばす節電機能が搭載されている点も便利だ。充電量が気になるときは、秒針をインジケーターとして残りの充電量を表示させることもできる。

 スイングジェネレータが搭載されたのは、トゥルームのなかでも“L Collection Break Line”(Lコレクション ブレイクライン)というラインであり、外装はかなりヘビーデューティな雰囲気。カラーリングはグリーン、ブラウン、ブラック、ホワイトなど自然をイメージしたもので、アウトドアでタフに使うシチュエーションを想定したものだと思われる。
 ケースはプロテクトコーティングされたチタンで、肌に優しく耐傷性も高い。GMT表示を搭載した回転ベゼルは、セラミック製で高級感がありつつ屋外で生じやすい擦り傷からの防護にも配慮されている。厚めに塗布されたルミナスライトや非常に存在感のあるダイヤカットインデックスなどのディテールは、視認性を高めると同時に時計全体のタフな印象をより強調している。ローターの動きが楽しめるようにシースルーバックを採用している点にも注目。このことからも機械式時計のファンをターゲットとしているのがよくわかるし、完成度に対する自信も感じられる。

 革ベルト(ホーウイーン社製クロムエクセルを採用)仕様やブレス仕様も選べるが、最もユニークなのはナイロンベルトだろう。航空機のタイヤコードにも使われる東レ製“GAIFU”を使用しており、ほつれやすい部分には革材を巻き込んで補強するという念の入った加工が施されている。これが時計自体のヘビーな雰囲気にマッチしているうえに装着感も良い。

■Ref.TR-ME2001。TI(45.4mm径)。10気圧防水。スイングジェネレータ(自動巻きクォーツ)。限定。8万8800円

 ムーヴメントの目新しさに加えて、外装や機能のクオリティも抜かりがなく、時計としてしっかりと作り込まれたモデルだと感じる。アクティブに使えるアンダー10万円の時計としてはかなり魅力的だし、機械式時計ファンにもしっかりアピールできるのではないだろうか。

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部

 

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