津田 寛治 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.69)

7年前の誕生日に、当時3歳の息子さんが「パパには絶対これ!」と主張して選ばれたというエピソード付きの時計。「息子が人生で初めて選んだプレゼントなんです」

俳優という仕事柄、自前の時計ははずさなければならないことも多く、何となく縁遠くなっている。時間を知るために使うのは携帯電話。そんな津田さんだが、撮影で訪れたアンティーク時計店で、時計というモノの面白さを感じる出来事があった。

「父と仲違いしたままの男が、仲直りのため、大学の入学祝いにもらった時計を修理しに行くシーンの撮影でした。お店には、100年200年前のイギリスの懐中時計とか、100万円単位の時計が山のようにあるんだけど、動かしたまま並べておくと傷むから全部止めてあるんですね。たまたま撮影が押していて、ふといま何時だろうと思ったんだけど、山のように時計があるのに時間がわからない!(笑)こんな世界もあるのかと驚きました」

翻って思い返すのは、番組の企画で生活をともにしたインドネシアの裸族とのやりとりだ。

「世話になった現地のお父さんが時計を欲しがっていたので、2度目のときに持っていったんですが、それがクォーツの時計。電池が切れたら使えないんだと伝えると、『こんな立派なものが使えなくなるはずがないだろう』と言われてしまって。文明の盲点だなあと痛感しました」

高価な消耗品に慣れ、「一生モノ」として使う感覚が麻痺していた自分。一方で、100年経ってもなお動き出すのを待っている古い時計。「時計は『一生モノ』への欲求に応える、数少ないモノなのかもしれませんね」

もちろん、演じるときにはさまざまな時計を着ける。時計を見る仕草もまた芝居の一部だ。

「ところが一度、小道具で電波時計が用意されていたことがありまして。劇中時間に合わせても、しばらくすると現実の時間に戻ってしまうんですよ! あれは失敗でしたねぇ(笑)」

演技中は常に劇中時間を意識している。それは時間の表現がないシーンであっても同じ。見る側は意識しないことにも細かく心を配る「作り手」の発想だ。

「もともと映画作りがしたくて俳優を目指したんです。俳優としても、ストーリーをあらゆる角度から眺めて、組み立てていきたいタイプなんですね」

映画とは「物語のなかの時間を切り取り、どう組み立てるかで見せるもの」と津田さんは考える。最近は念願の映画監督も経験。撮ってみたいのは「日常の小さなものに焦点を当てて、大きく描く映画」だ。

「生活のなかのささやかなことも、時間を止めて掘り下げるといろんなものが詰まっている。そういうものを表現してみたいです」

 

津田 寛治俳優
KANJI TSUDA 1965年8月27日、福井県生まれ。映画の世界に憧れ、俳優を目指して上京。都内の録音スタジオ内の喫茶店でアルバイト中、来店した北野武に売り込んだことがきっかけとなり、同監督作品『ソナチネ』で映画デビューを果たす。以降、映画を中心に、テレビドラマ、舞台と出演多数。現在、テレビドラマ『レディ・ジョーカー』(WOWOW)、舞台『八犬伝』(M&Oplaysプロデュース、東京、大阪、愛知で上演)に出演中。

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