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無駄のない質実さに惚れる【ミリタリーウオッチ】の歴史をひも解く|No.01

 華美な装飾など一切ない、まさに質実剛健な意匠が男心をくすぐるミリタリーウオッチ。
 たびたび当時の復刻モデルが発表されるなど、現在でも高い人気を誇るジャンルだが、では、ミリタリーウオッチの一体なにがそこまで多くの人を引き付けるのか。

 質実剛健な意匠だけではないミリタリーウオッチの魅力をさらに理解するため、今回からその歴史を時系列に沿ってお伝えしていきたい。

1943年に編成されたアメリカ海軍特殊潜水部隊で、現ネイビーシールズの前身となる水中爆破部隊“UDT(=Underwater Demolition Team)”で使用されたブシップウオッチの復刻版。最大の特徴である巨大なリューズキャップはもちろんのこと、ケースから文字盤、ベルト、サイズに至るまで、出来る限りオリジナルの意匠に従い忠実に再現した。
■モントルロロイ。SS(33mm径、リューズ込み44mm)。10気圧防水。クォーツ(日本製)。2万3000円

 

 そもそもミリタリーウオッチとは、一般に“軍隊が正式に採用し公式に使用する時計”あるいは“軍隊によってオーダーされる時計”と解釈されている。
 そうした意味では、マリン・クロノメーターについては18世紀にはすでに海軍所属の艦艇に配備されていたし、いつからかは定かではないが、腕時計に先立って戦場では懐中時計が用いられてた。

 腕時計として記録が残っているものでは、1880年にジラール・ペルゴが初代ドイツ皇帝・ヴィルヘルム1世からの注文を受けて、ドイツ海軍の将校用に開発した時計が世界初とされている。
 また腕時計の歴史に関連するいくつかの文献をみると、1893年にロンドンの皮革製品メーカーが懐中時計を腕に巻くための“リストストラップ”という製品のデザインを登録したという記録が残っているほか、1897年に撮影された兵士たちの写真にこのリストストラップと思しきものが腕に着けられている。
 こうしたことを踏まえると、おそらくは第2次ボーア戦争以前から、軍用として腕時計の使用が試みられていたことが想像される。

写真は1880年にジラール・ペルゴが開発した世界初とされるミリタリーウオッチ。これは懐中時計に、風防を保護するカバー、そして腕に着けられるようにベルトとそれを固定するワイヤーラグを持ったものだった。画像:Pierre EmD

 

 腕時計が戦場で使われはじめたとされる19世紀末から20世紀初頭。こうした黎明期のミリタリーウオッチは、いかにして懐中時計を腕に巻けるようにするかに加え、いかにして懐中時計の耐久性を向上させるかに関する試行錯誤が中心だった。

 というのも、当時の腕時計は、主に女性が身に着けるアクセサリーとしての性格が強く、装飾性を第一とした小さな腕時計が大半だったためだ。
 それゆえ、実用性と機能性が得られる懐中時計を腕に巻くという発想からミリタリーウオッチは発展していくこととなる。

1920年前後のロレックス製腕時計。といっても、懐中時計からコンバートされたようなスタイルを持つ。ケース6時側にあるボタンを押すと、バネで文字盤カバーが開く仕組み。文字盤にROLEX表記もなく、当時の軍用時計ではないかと推測される。
■ロレックス。英国軍用フリップトップシルバーケース。1920年前後製/参考商品

1930年代にドイツのパイロットが使用したとされる大きなリューズとコインエッジの回転ベゼルを備えたアヴィエーションウオッチ。■ゼニス。アヴィエーションウオッチ スペシャル。メタル(クロムメッキ、41㎜径)。手巻き(Cal.不明)1930年代製/参考商品

 面白いことに最初に開発が進んだのは懐中時計自体ではなく、それを腕の着けるためのベルトであった。
“リストレット”や“リストストラップ”、“キッチナーベルト”など、呼び名は様々だが、安定性を考慮して時計をしっかりホールドするように台座や腕当てを持ったベルトが次々と開発されていったのである。同時に時計自体、特にケースや風防の改良が進むと懐中時計の名残りは残ったままではあったが、良く知られた腕時計のスタイルへと徐々に近づいていくこととなった。

アメリカ軍のシグナルコープス(Signal Corps=米軍通信隊)で使用されたと思われるモデル。細身のラグの保護するとともに安定性を高めるため、台座付きのベルトが採用された。
■ゼニス。アメリカ軍シグナルコープスモデル。メタル(34.5㎜径)。手巻き(Cal.不明)1910年代製/参考商品

 その後、一部の高級将校と下士官に限られてはいたものの、1914~18年の第1次世界大戦でその有用性が示されるようになると、ミリタリーウオッチはいよいよ戦場に欠かせないものとなっていく。
 当初の急造品的なミリタリーウオッチが抱えた問題点は時計メーカーの技術発展も相まって徐々に改良が進んだが、同時にミリタリーウオッチに求められる機能やデザインは明確化、細分化されていったのである。

 次回は、第2次世界大戦下、さらに発展していく1940年代のミリタリーウオッチについて解説する。

 

 

文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修

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