ドイツ時計

【A.ランゲ&ゾーネ創業175周年記念連載Vol.1】ドイツ・グラスヒュッテに一大時計産地を築いたF.A.ランゲ

 2020年はドイツ・ベルリンの壁が崩壊(1989年11月)し、東西の統一がなされてから30年という節目の年だ。ドイツにとって重要な節目の年であることに違いないが、実はもうひとつ、同国の時計産業においても大きな転機を迎えた年から175年目というアニバーサリーイヤーなのである。


ドイツを代表する時計産地の誕生

 19世紀初頭、ドイツ時計産業の中心はライン川の上流にある旧西ドイツのシュヴァルツヴァルト地方であった。
 この辺りは“黒い森(ブラックフォレスト)”と呼ばれるほど一帯を森で覆われた地域で、自生する木を使って、シュヴァルツヴァルトの人々は昔から木製のクロックを製造してきた。なかでも有名なのは、1時間ごとに鳩が飛び出して時間を知らせる通称“鳩時計(正しくはかっこう時計)”である。その長い歴史を証するように、1852年にはおそらく世界で初の時計博物館が設立されている。
 その技術やノウハウは今日まで綿々と受け継がれ、現在もドイツにおける一大時計産地として知られている。

 一方、東側にも今日、一大時計産地として知られる地域がある。
 A.ランゲ&ゾーネを筆頭にモリッツ・グロスマンやグラスヒュッテ・オリジナルなどが拠点を置く“グラスヒュッテ”である。

 1845年、この地に時計工房を設立し、世界に誇る時計産地に発展させた人物こそ、A.ランゲ&ゾーネの創業者、フェルディナント・アドルフ・ランゲ(以下F.A.ランゲ)である。

ドレスデンの時計師だったF.A.ランゲは、1845年にグラスヒュッテに移り住み、時計会社を設立。現地出身の若者を時計師に育てあげ、同地を時計産地として発展させた

 そう、今年はA.ランゲ&ゾーネが創業し、グラスヒュッテに時計産業が興ってから、175年目にあたるのだ。

 

今日も受け継がれるF.A.ランゲの精神と伝統

19世紀後半から20世紀前半のA.ランゲ&ゾーネ黄金期に製作された1Aクオリティ(最高品質レベル)の懐中時計

 

 今日、グラスヒュッテの伝統として受け継がれるものの多くは、F.A.ランゲとその息子たちによって生み出された。その代表的なもののひとつが、ムーヴメントに見られる特徴的な4分の3プレートである。

ドイツのA.ランゲ&ゾーネに収蔵されている1884年頃製の金無垢 懐中時計 HTU Nr. 17534 lfd. Nr. 0034

 受け板がムーヴメント全体の4分の3を覆う大きさからこう呼ばれるもので、1860年代にF.A.ランゲによって導入されたと言われる。歯車をすべてひとつのプレートで支えることで、組み立てやすくすると同時に安定性を向上させる狙いで導入されたものだが、これが今日も多くのグラスヒュッテ時計に伝統として受け継がれている。
 その素材には一般的な真鍮(しんちゅう)ではなく、ジャーマン・シルバー(洋銀)と呼ばれる、かつてドイツで銀の代用品として作られた特有の素材が用いられていることも特徴だ。

ハイグレードのムーヴメントにはテンプを支える受け石にダイヤモンドを用いているほか、受けに手彫りによる精緻な装飾が施されるなど、高級機にふさわしい美観も備えた

 こうした時計製造における伝統は、今日のA.ランゲ&ゾーネの時計でも随所に見ることができる。展開する手巻きムーヴメントのほとんどで、洋銀製4分の3プレートを採用するほか、手彫り装飾を施したテンプ受けをもつのだ。

1815 アニュアルカレンダーに搭載される自社製Cal.L051.3

 そして同社のなかでも、ランゲ黄金期における意匠が最も感じられるコレクションとして展開されるのが、創業者フェルディナント・アドルフ・ランゲへの敬意を表して、彼の誕生年にちなんだ“1815”コレクションである。

 次回は、この1815ファミリーについて紹介していきたい。

 

文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修

 

【問い合わせ先】
A.ランゲ&ゾーネ TEL:03-4461-8080
https://www.alange-soehne.com/ja/campaigns

 


【175年の歴史を振り返る】“A.ランゲ&ゾーネ”の175年アーカイブ巡回展が開催中

 ブランドの時計作りの原点である、F.A.ランゲとその息子たちによって生み出された懐中時計が今回、本社のアーカイブより、19世紀後半から20世紀前半にかけて製作されたポケットウオッチ5点が来日。日本国内のA.ランゲ&ゾーネブティックにて 巡回展を開催する。

 本巡回展で展示されるのは、A.ランゲ&ゾーネの品質等級で“1A”と称され、最高ランクに位置付けられた貴重なタイムピース。

 洋銀製4分の3プレートやゴールドシャトン、ダイヤモンドの受け石、ハンドエングレービングで仕上げたテンプ受けなど、いまも受け継ぐ伝統技法とムーヴメントを彩る丹念な手仕事を、現代のコレクションとともに見てみてほしい。

【A.ランゲ&ゾーネ 175年アーカイブ巡回展スケジュール】

A.ランゲ&ゾーネ 日本橋三越本店
日程・・・2020年10月14日(水)~10月27日(火)
営業時間・・・10:00〜19:00(定休日なし)
場所・・・東京都中央区日本橋室町1-4-1 日本橋三越本店 本館6階 ウォッチギャラリー
問い合わせ・・・代表TEL.03-3241-3311、Email:hiroya.yamazaki@richemont.com

A.ランゲ&ゾーネ 伊勢丹新宿店
日程・・・2020年11月4日(水)~11月17日(火)
営業時間・・・10:00〜20:00(定休日なし)
場所・・・東京都新宿区新宿3-14-1 伊勢丹新宿店本館5階
問い合わせ・・・代表TEL.03-3352-1111、Email:als.shinjukuisetan@lange-soehne.com

A.ランゲ&ゾーネ 阪急うめだ本店
日程・・・2020年11月19日(木)~11月26日(木)
営業時間・・・10:00〜20:00(定休日なし)
場所・・・大阪市北区角田町8-7 阪急うめだ本店6階
問い合わせ・・・代表TEL.06-6361-1381、Email:lange-soehne-h.umeda@cronos.co.jp

A.ランゲ&ゾーネ 銀座
日程・・・2020年12月16日(水)~ 2021年1月11日(月)
営業時間・・・11:00〜19:00 (定休日なし)
場所・・・東京都中央区銀座6-7-15 第二岩月ビル 1階
問い合わせ・・・TEL.03-3573-7788、Email: als.ginza@lange-soehne.com

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