ロレックスやオメガ、IWCなど、名だたる時計ブランドはその実用性や信頼性から高い価値を見出され、アンティーク愛好家たちの間ではいまなお高値で取引されている。
だがしかし、汎用ムーヴメントの採用や他社との協力開発によって良質な製品を生み出し、手ごろな価格帯で人知れず生き残り続けてきた傑作時計も数多く存在する。そこで今回は、マイナーだが確かな品質を備えた、隠れた名作シリーズを紹介する。
今回紹介するのは、1950年代にミドーが製造したマルチフォート パワーウインドだ。
マルチフォートシリーズは黎明期であった自動巻きのムーヴメントを防水ケースに搭載した実用時計で、防水性能以外にも耐磁、耐衝撃性能を備えた高性能な腕時計として同社の歴史を支えてきた。

【写真の時計】ミドー マルチフォート パワーウインド。SS(36mm径)。自動巻き(Cal.917PC)。1950年代製。14万3000円/プライベートアイズ
このシリーズでは初期に搭載したバンパー式ムーヴメントが有名だが、ここで取り上げたモデルでは全回転式ローターのCal.917Pを採用している。
このムーヴメントはア・シールドのエボーシュムーヴメントをベースに、ミドー専用に精度の微調整が可能なインカスターシステムを組み込んだ特別品。天真には耐震装置を備えているため、日常的な使用でも安心できるだろう。
加えてこの個体には、初期に採用されていたFB(フランソワ・ボーゲル)ケースの意匠を継承したスクリューバック式の防水ケースが使われており、ムーヴメントの進化とともに、シリーズとしての一貫性を保ったデザインとなっている。さらに、ミドーの刻印が入ったオリジナルのプラ風防が残っており、非常に貴重な個体と言えるだろう。
文字盤はグレーカラーベースに十字状にツートン仕上げが施された秀逸なデザインで、くさび形インデックスやドーフィン針と相まって、1950年代の雰囲気を存分に感じさせてくれる1本だ。
文◎LowBEAT編集部/画像◎プライベートアイズ