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そのなかから編集部が注目するモデルの情報をお届けしよう。
モバード
デイトロン Hs360
今回紹介するのは、1970年代に製造された自動巻きクロノグラフ、モバード デイトロン Hs360 パイロットだ。
本個体はデイトロンの中でも、双方向回転ベゼルを備えたパイロット仕様である点が特徴的だ。ケースサイズは42mm径と非常に大きく、防水性を高めるためにスクリューバックを採用している点も、重厚なパイロットウオッチらしさを感じさせるポイントである。
ケースやベゼルには使用に伴う小キズや打痕が見られるものの、オリジナルのシェイプはしっかりと保たれている。文字盤や針については、夜光部分にわずかな変色が確認できるが、キズやシミなどの目立ったダメージは見られない。

【写真の時計】モバード デイトロン Hs360 パイロット。SS(42mm径)。自動巻き(Cal.3019PHC)。1970年代製。62万8000円。取り扱い店/ジャックロード
Hs360という名は、本個体の特徴であるムーヴメントのスペックに由来し、毎時3万6000振動を意味する。自動巻きクロノグラフでハイビートと聞けば、時計愛好家であれば“ゼニスのエル・プリメロ”を思い浮かべるはずだ。
それもそのはず、搭載されるムーヴメントはCal.3019PHC、エル・プリメロそのものである。1960年代末、ゼニスとモバードは経営統合のもとでムーヴメントの共同開発を行っており、エル・プリメロもその時代に生まれたムーヴメントだ。クロノグラフ機構や自動巻き機構など基本設計はゼニスが主導したが、高振動化に関する技術にはモバードが携わったとされている。
ほぼ同時期に登場した自動巻きクロノグラフ、セイコーCal.6139やクロノマチックCal.11と比較しても、圧倒的な振動数を誇り、精度の面では他を凌駕していた傑作機と言えるだろう。また、ムーヴメントの薄型化や生産性・整備性を考慮し、可動部分に調整用の偏心ネジを採用するなど、ゼニスの先見性が垣間見える設計も魅力である。
もっとも、高振動化に伴い強いトルクを生み出す硬い主ゼンマイを使用していたため、自動巻きの切替車の耐久性や巻き上げ効率など、自動巻き機構に弱点を抱えていたとされる。また、デイト機構のジャンパー用バネもヘタリや破損によって交換や調整が必要になる場合がある。そのため、購入を検討する際は、適切な整備が施された個体を選ぶことを推奨したい。
弱点も少なくないエル・プリメロだが、数々の歴史的エピソードや高精度化に特化した設計思想など、デメリットを上回る魅力が存分に詰まった、時計好きにはたまらないロマンあふれる傑作ムーヴメントなのである。
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文◎LowBEAT編集部/画像◎ジャックロード
