20万円台から買える実用アンティーク「オメガ・30mmキャリバー」とは【前編】

 今回は、筆者が編集長を務めるアンティークウオッチの専門誌「ロービート(Low BEAT)」でも“使えるアンティーク”として何度も取り上げているオメガの通称“30mm キャリバー”について書きたいと思う。

 30mm キャリバーとは、オールドオメガを代表する傑作ムーヴメントとして、真っ先によく挙げられる1939年に開発された手巻きムーヴメント、キャリバー30のことである。13リーニュ=約30mmサイズで作られていることからこう呼ばれているが、この30mmというサイズが傑作と呼ばれるゆえんでもあるのだ。

キャリバー30を搭載したモデルは愛好家の間では30mmキャリバーと呼ばれる。写真のスモールセコンドタイプとセンターセコンドタイプがある

 19世紀からマリンクロノメーターや懐中時計のさらなる品質向上を目的として精度の高さを調べる公的検査機関が設けられ、主に天文台に置かれた。当時は、ムーヴメントの精度の高さを競い、それにランク付けを行うという、クロノメーターコンクールが、各検査機関で毎年開催されており、1940年には腕時計もその対象に含まれるようになった。

 オメガが腕時計用ムーヴメントでコンクールに初参加したのはちょうどその年で、イギリスのキュー・テディントン天文台のコンクールだった。そして何と、クラスAでいきなりの1位を獲得。そのときのムーヴメントが手巻きのキャリバー30というわけである。

 クロノメーターコンクールでの腕時計用ムーヴメントの規定は、直径30mm以内、あるいは表面積が706.80平方ミリメートル以内、厚さ5.3mm以内とされていた。つまり、キャリバー30はこの規定以内の30mm、厚さ4mmという仕様で設計されていたのだ。

オメガが1939年に開発した手巻きムーヴメント、キャリバー30。約290万個以上生産された、と言われる

 当然、ほかのメーカーも同じサイズを採用している。しかし、これらのコンクール用ムーヴメントの多くは、特別に開発されていたため市販されることはかなり少なかったようだ。

 それに対してオメガは、キャリバー30ベースの初のクロノメーターモデルを1943年に量産化している。この30mmキャリバーにこだわり続け、これをベースに高精度化を目指していた背景には、あくまでも“市販化”に主眼を置いていたからにほかならない。この点が今日でも愛好家に高い評価を得ている大きな理由と言えるのだ。

 1939年以降オメガは、このキャリバー30を毎年のように改良を加えた。そのためスモールセコンドタイプ(秒針が時分針と別に6時位置にある)で11回、センターセコンドタイプ(秒針が時分針と同じ中央にある)で7回も型番が変更されている。

 このように年々進化しながらオメガの名声を世界に広めたキャリバー30は、やがてイギリス軍が採用するほど優れた耐久性を備えることになる。しかしながら、やがて腕時計はさらなる実用性を求めて防水ケースと自動巻き機構が普及していくなか、キャリバー30は年々時代遅れなものとなっていったのである。そして1963年、23年間でその製造が中止されたのだった。

 さて、後編では「なぜ愛好家からの評価が高いのか」をテーマに、性能とデザイン、そして市場価格相場についてお届けする。1月16日(土)の朝に配信予定。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。