【知っておきたい腕時計の基本】自動巻きの巻き上げ方式“マイクロローター”のメリットデメリット

 2017年にブルガリが発表したキャリバーBVL138は、2.23mm厚という薄さを実現し、当時の自動巻きムーヴメント世界最薄記録を塗り替えた。ちなみにBLV138の発表前まで最薄記録を保持していたのは、ピアジェのアルティプラノに搭載された1208Pで、これも厚さはわずか2.35mmしかなかった。汎用機のETA2892の厚みが3.6mmであるため、これらは1mm以上も薄い。わずか1mmと思うかもしれないが、手の平サイズの腕時計の世界でこの差は非常に大きい。

BVL 138が搭載されたオクト フィニッシモ オートマティック。ムーヴメントだけでなく、ケース厚も5.15㎜と非常に薄い。一方、文字盤をくり抜いたインデックスを採用することで立体感を演出している

ピアジェは“ムーヴメントをケースに納める”という従来の構造を捨て、ケース自体をムーヴメントの地板に見立てて、そこにパーツを組み込んだキャリバー900Pというムーヴメントも開発している。これによりケース全体で4.3mmという薄さを実現した自動巻きモデルを発表している

 先のブルガリとピアジェの二つのムーヴメントに共通する特徴が、マイクロローター式を採用しているという点だ。つまり、今日、自動巻きの世界最薄という称号を得るためには、マイクロローター式が必須の条件とも言えるのである。

 ではここで改めてマイクロローターがいったいどういったものなのか、メリットデメリットも含めて解説していこう。
 ベースムーヴメントの上にローター(回転錘)を重ねる方式となった一般的な“センターローター”に対して、ローターをベースムーヴメントに組み込んでしまったのが“マイクロローター”である。見た目にも違いは明らかのため、時計にそれほど詳しくない人でもすぐに見分けがつくはすだ。

ブルガリのキャリバーBVL 138。画像上部に見えるブランド名が入ったパーツがマイクロローターだ

 このマイクロローターのメリットは、ずばり高さを抑えられるという点である(もっとも、パーツを横方向に展開するため直径は大きくなりやすい)。つまり、そもそも薄型化が大きな目的で開発されたメカニズムだったのである。初めて登場したのは自動巻きが普及しはじめた1950年代とされ、54年にはビューレン社が特許を取得している。
 薄型化に適したマイクロローターだったが、一方で弱点がないわけではなかった。そのひとつがローターが小さいがゆえに巻き上げが十分に行えないという点だ。とくに初期のマイクロローターは、パーツの加工精度もいまほどに高くなかったこともあって、ゼンマイが巻き上がらない場合が多く、70年代に入るまで普及することはなかったのである。

 そんなマイクロローターが注目されはじめたのは、77年にパテック フィリップが発表したキャリバー240(2.53mm厚)の登場以降ではなかったか。この240ではローターの素材に比重の重い22金を用いて十分な巻き上げ効率をアップさせるなど実用も優れたものだったのである。いまだ240が現役であることからもその完成度の高さがうかがい知れるだろう。ちなみに、BVL138ではローター素材に金よりも重いプラチナを、同じくマイクロローター式のパネライP.4000ではタングステンを用いて巻き上げ効率を高めている。

 

文◎堀内大輔(編集部)