漆の⽼舗“坂本⼄造商店”と共同開発した魅力的な文字盤を採用!【国産ウオッチ本音レビュー|Vol.23】

 以前から和紙や七宝焼、螺鈿など、日本の伝統工芸を文字盤の装飾にうまく採用してきたシチズンが、今回は漆に注目して新しいモデルを作り上げた。比較的リーズナブルな価格帯で個性的なデザインのモデルを多数リリースしているシチズンコレクションから発表された新作メカニカルは、ちょっとオトナっぽい佇まい。柔らかなホワイトトーンは落ち着いた雰囲気を感じさせる。

シチズンコレクション メカニカル
■(右)繭色(まゆいろ)。Ref.NB3020-08A。14万3000円。(左)鈍緋色(にびひいろ)。Ref.NB3020-16W。13万2000円。ステンレススチール(40.5mm径、14.1mm厚/設計値、デュラテクトプラチナ加工)。10気圧防水。自動巻き(Cal.9184)。10月下旬発売

 右のNB3020-08Aの文字盤は、金属板に漆を塗った上に銀箔をまぶすようにのせ、さらに白い塗装を重ねたという凝った技法が採用されている。漆の加工については創業121年にしてMoMAにもその作品が永久所蔵されている老舗“坂本乙造商店”とのコラボによるもので、そのクオリティは折り紙付き。通常の金属文字盤に比べると、全体のトーンが柔らかくなっている。色味は繭の柔らかな白をイメージしているそうだが、光の当たり方で微妙に表情を変えるところが着けていても楽しい。対して左のNB3020-16Wは、硫化させた銀箔を貼ることで紅葉した森林の薄暮をイメージしたトーンを生み出している。やや斑柄になった文字盤は個体ごとにその柄が異なるため、一点もののような味が楽しめる。

 文字盤には3時位置にカレンダー、6時位置に24時間計、10時位置にパワーリザーブインジケーターを備えており、表示が多いにもかかわらず上品にまとめられている。アップライドインデックスはバーとローマン数字の組み合わせで、ミラー仕上げ(鈍緋色ではミラーとマットで磨き分けている)となった針のシャープさも相まって引き締まった印象だ。40.5mmというケースサイズも程がいいし、ケースエッジの処理もきれいで、文字盤が放つ和のテイストをうまく引き立てていると感じる。レザーベルトは肉厚なコードバンとカーフで、装着感は上々。高級感があってかなり年齢層が高いユーザーにもマッチしそうなデザインだ。

NB3020-08A(右)はコードバンであるのに対して、NB3020-16Wではカーフ(型押し)と、それぞれの表情に合わせて異なるものを装着している

 搭載されているムーヴメントはCal.9184で、これは以前からシチズンコレクションに採用されていた8振動の自動巻きムーヴメント(手巻きにも対応)である。パワーリザーブは約40時間だ。またケースバックはシースルーになっておりムーヴメントの動きが楽しめるのだが、ローターの形状がちょっとユニークなため、その動きを見ているだけでもかなり面白い。デュラテクト加工が施されたケースはしっかりした質感で、防水性能も10気圧あるので、一般的な使い方ならほぼ問題なく使えるだろう。

 10万円台前半という価格以上の高級感を感じさせるのは、やはり漆を使った文字盤のトーンが大きいだろう。多くの和工芸を取り入れてきたシチズンだが、銀箔と漆のコンビネーションはシンプルながらコストも手間もかかっていることはよくわかるし、デザイン的にも押し付けがましくないのにしっかりと個性を主張している。それぞれの文字盤の個性をフルに生かすためにディテールにもちゃんと力を入れており、非常に真面目に作られた時計だと思う。

 

【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室 TEL.0120-78-4807
https://citizen.jp

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽 英俊/写真◎編集部