八名 信夫 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.21)

約13年前に購入したという1本。値段は「300万円近かった」とのこと。ファンクラブに時計好きな人がいたのがきっかけらしい

 

泣く子も黙る悪役商会のリーダー、八名信夫さん。お茶の間のイメージでは、金ムク・ロレックス(ダイヤ入り)をお好みのような感じがするが……。

「ハハハ、役柄でそういうのをしたほうがいいと思うときだけだな。ヤクザの親分とか金貸しとか。ちょっと刑事モンやったりするときは、本当にそこらにある1万円ぐらいのを使う。だから、役者として種類は多く持ってたほうが使い道はあるわな。(値段が)高い腕時計だと、今15本ぐらいあるか。もう大概、手に入れたわ。やっぱりね、本物は本物として映るんだな。特に映画は。だから危険な立ち回りがあるようなシーン以外は、自分の本物のヤツを使ってるよ。
今日持ってきたのはピアジェ。古い形なんだが、そういうほうが好きでね。薄いのがいい。オールドファッション的なモンのほうが、オレは好きなんだ。最近のは分厚くて大きいだろ。ディナーショーでステージに立つときなんかはダイヤ入りのもするけど、イエローゴールド系は基本的にしない。同じゴールドでも、ホワイトゴールドのほうがいい」


本物は本物として眺るんだな。特に映画は。
だから危険な立ち回りがあるようなシーン以外は、自分の本物のヤツを使ってるよ。

自分がどう見えるか、自分がどう思うか。八名さんのこだわりは、腕時計だけに留まらない。

「男のファションといえば、腕時計、靴、カフス。ちょっと見えるか見えないかっていうのが、オシャレだと思うんだな。女性の色気と一緒よ。ネクタイなんかはね、もうオシャレじゃないんだ。あんなのは、ないほうがいい。冠婚葬祭などにはネクタイをするっていうのが日本の習慣だけども、『あ、いいネクタイしてるな』っていう人には会ったことがない。人からもらった物なんて、それこそ絶対似合わないから、先にいらないっていうようにしてる」


だから結局は、生き方なんだろうな、その人の。それが腕に表れとる。

そんな八名さんが最近、集めている物は意外にも柱時計だという。

「ロケーション先なんかでね、馬小屋の奥のほうでコンコン鳴ってたり、家の端のほうで横傾いてたりするのが、妙に味があるなぁと思って。2、3個手に入れてみたら、これがいいんだ。昔だったら何十円だっていうようなヤツよ。何もね、高級品だけがいいんじゃないんだ。すごく味があるし、なんていうか郷愁を感じる。オレら小っちゃい頃、家屋の奥のほうでボーンボーンって鳴るのを聞いて育ってるから。で、集め出したら、なにがなにが40~50個ぐらいになってしまってな。ビックリするよ、玄関入ったら『うわぁっ!』いうぐらいあるから(笑)」

年齢と経験を重ねてきたからこそわかる物の本当の価値。最後に八名さんが考える、腕時計のカッコいい選び方について聞いてみた。

「やっぱり身分相応っていうかね、今生きている自分に合った腕時計というのがあるはずなんだよね。たとえばね、石原裕次郎さんは1本何千万の物をしていた。だけど、それがあの人の生活なんだよな。ステイタスとかじゃない。美空ひばりさんが、最高級の物をいくら身に着けようが、誰もイヤミに思わんわ。そら、あれだけの人だもの。逆に高倉健さんなんかは、いい腕時計も持っておられるんだろうけど、ものすごく地味よ。あの人は高倉健に似合う物はこうなんだ、っていう意思を曲げないし、変えない。だから結局は、生き方なんだろうな、その人の。それが腕に表れとる。オレはやっぱり、悪役はここまでやろな、と。これ以上の物も必要ないだろうし、付けたところでかえっておかしいもんじゃないかってね。悪役には悪役の、器みたいなモンがあるんだから。歌の文句じゃないけど、似合わないモンには手を出すな。飾った世界に流されるな、っていうね」

役者人生をかけて悪役に徹しきる。そんな八名さんの生き方もまた腕時計の中に宿っている。

 

八名 信夫俳優)
NOBUO YANA 1935年生まれ。岡山県岡山市出身。プロ野球選手を志し、明治大学から東映フライヤーズへ投手として入団するも、試合中の怪我のため、現役を断念。映画俳優の道に入る。東映映画全盛期に悪役として名を広め、1983年、悪役商会を結成。今年は『大阪新歌舞伎座 天童よしみ公演』(9月1日~27日)で副座長を、『千歳座 まぶたの婆ちゃん』(岡山市民会館 11月19日、20日)にて作・演出・主演の3役をこなす予定。ラジオ『悪役は口に苦し』(熊本放送 日曜17時~17時30分)も絶賛放送中。

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