【第2回】ポストヴィンテージ時代の腕時計|1970年代に誕生したラグジュアリースポーツ

 タイトルにある“ポストヴィンテージ”については、2020年1月11日投稿の【第1回】で説明しているが、読んでいない方のためにあらためて説明させてもらうと、アンティークウオッチは、業界の慣例として1960年代までのモデルを指すが、それ以降の時代となると、これまであまり注目されてこなかったこともあって、ひと言で括るキーワードがない。

 そこでアンティークウオッチの次に注目される存在として、1970年代から90年代までの30年間に生産されたモデルに対して、編集部が独自に定義させていただいたものである。

 そして2回目となる今回は、そんなポストヴィンテージ時代に誕生し、その最初の70年代を語るうえで外せないモデルであり、近年再び注目されているラグジュアリースポーツのルーツとも言える傑作モデルについて簡単に触れたいと思う。

 1950〜60年代は機械式時計の黄金期といわれるほど隆盛を極めていたスイスの時計産業だったが、70年代に入ると一転、高精度で生産性の高いクォーツ時計の台頭に加えて、産業自体の工業化の立ち後れも重なり斜陽を迎えていた。そんななかで、新たな市場を見据えて老舗メゾン各社によって投入されたのが、オーデマ ピゲのロイヤル オークを筆頭とする高級スポーツ時計だった。

 当時、ロイヤル オークのデザインを手がけた“ジェラルド・ジェンタ”が、これからの時代を見据えて目指したものとは、ダイバーズウオッチでもクロノグラフでもない、薄型ながら防水機能をもつシンプルなスポーツウオッチだったと言われる。それを具現化するために彼がとった手法が裏ブタとケースを一体化させた2ピース構造だった。そして素材にステンレススチールを使い、高級素材に匹敵するほどの仕上げが施された。

 つまり、薄型かつスポーティな外装に、宝飾時計に匹敵する徹底した仕上げを施すことで、汎用素材を使った高級時計という新たな価値感を生み出したというわけだ。

当時の個体がアンティーク市場で高騰している写真右からオーデマ ピゲ“ロイヤル オーク”、パテック フィリップ“ノーチラス”、そしてヴァシュロン・コンスタンタン“222(ステンレスモデルもあり)”である。ちなみに前者二つはジェラルド・ジェンタだが222はヨルグ・イゼックによるデザインである

 しかし、この高級スポーツ時計という新たなジャンルは、当時の市場にはなかなか受け入れられず、セールス的には苦戦を強いられたと言われるが、スイス時計界に一石を投じたことは確かで、後に数多くの時計ブランドでも採用されていくことになる。

 ボーム&メルシエのリビエラ(73年)、ジラール・ペルゴのロレアート(75年)、パテック フィリップのノーチラス(76年)、そしてヴァシュロン・コンスタンタンの222(77年)と、70年代はこのロイヤル オークに範をとった高級スポーツ時計が続々と誕生したのだった。

 ドレスウオッチでもなく、無骨なスポーツウオッチでもない。スポーティな見た目と高い実用性を兼ね備えていた当時の高級スポーツ時計という新たなジャンルは、近年、ラグジュアリースポーツとして再び注目をあびている。

 2017年にはジラール・ペルゴのロレアートが復活し、19年にはショパールが1980年代のサンモリッツをベースにしたアルパイン イーグルを、そして驚いたのがA.ランゲ&ゾーネも初のステンレス製スポーツライン、オデュッセウスを発表。ラグジュアリースポーツ市場に初参入を果たした。

パテック フィリップの当時のノーチラス。これもジェラルド・ジェンタによるデザインだ。当時は2針だが現行モデルは3針。いまや世界的な人気のためバックオーダーも受け付けていないらしい。そのため現在の実勢価格は800万円台と定価の2倍以上だ

 ちなみに、現在も生産が続くオーデマ ピゲ“ロイヤルオーク”とパテック フィリップ“ノーチラス”は、びっくりするほどの実勢価格で流通している。

 当時のオリジナルデザインを踏襲しているロイヤルオーク ジャンボ エクストラシンは、定価297万円に対して実勢価格が400万円台後半から500万円台。一方のノーチラスは、定価357万5000円に対して800万円台と2倍以上、残念ながらほとんど入手は困難という特殊な状況だ。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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