【ロレックス】通信 No.048|モデルチェンジ候補・第4弾|意外と知られてない耐磁時計としての実力。「ミルガウス」(前編)

 旧型となってしまった3100系の自動巻きムーヴメントをいまだに搭載するモデルを、2021年のモデルチェンジ候補として順次紹介している本企画。
1、サブマリーナデイト
2、グリーンサブ
3、サブマリーナノンデイト(日付表示が付いてないタイプ)
4、エクスプローラー I
5、エクスプローラー II
とこれまで五つのモデルを取り上げてきたが、残すところミルガウスとエアキングのあと二つ。ということで今回はミルガウスを取り上げる。

 まずは歴史から簡単におさらい。
 機械式の腕時計の天敵と言えば“水”と“磁気”である。そんな厄介者のひとつ“磁気”に対抗するべく優れた耐磁性能に特化して開発されたのがミルガウスだ。そのため名前もフランス語で1000を表す“ミル”と磁束密度の単位“ガウス”を組み合わせた造語が採用された。そして、そのファーストモデル、Ref.6541が誕生したのは1956年のこと(下の写真)。実に60年以上も前だ。

ミルガウスのファーストモデル、Ref.6541。秒針がイナズマのような形状でかなり見た目も特殊だったことがわかる(シーズ・ファクトリー刊「プレミアムロレックス」より)

 50年代といえば、テレビの本放送が始まったばかりで、テレビ自体もまだそれほど普及はしていない、もちろんいまのようにパソコンなどあろうはずもない。つまり、磁気を発するデジタル機器とはほとんど無縁に等しかった時代に誕生したことになる。

 しかも一般的な機械式腕時計においては、その信頼性と精度に影響を及ぼすと言われている磁場が50〜100ガウス。それに対してミルガウスは、0.1ステラまたは8万A/m(アンペア毎メートル)に相当する1000ガウスまでの磁束密度に耐えるように作られた。この数値だけみても、そんな時代に如何に特殊な時計だったかがおわかりいただけるだろう。

 ちょっと話は逸れてしまうが、機械式ムーヴメントが一旦磁気を帯びてしまうとどうなるかご存じだろうか。遅れや進みといった精度に狂いを生じさせるばかりか、自然には直らないため時計修理店に脱磁処理をしてもらわないといけないなど、結構面倒なことにもなる。バッグなどに付く磁石に加えて、スマートフォンやタブレットといったデジタル機器を常に携帯する現代社会においては、特に磁気にさらされやすい環境にあるため要注意なのだ。

 ちなみに、スマートフォンやタブレットだが、一説によれば、タブレット端末に密着させると3万2000A/m(400ガウス)、スマートフォンのスピーカー部分でも1万6000A/m(200ガウス)と言われている。それに対してミルガウスは8万A/m(1000ガウス)と、その能力の高さは歴然だ(オメガにはさらに上をいく1万5000ガウスのシーマスターアクアテラがある)。

1980年代後半まで製造されたセカンドモデル、Ref.1019の内部。金色のパーツが磁気帯を防ぐ軟鉄製のインナーケースだ(シーズ・ファクトリー刊「ゼロからわかるロレックス」より)

 では、ミルガウスはどのようにして磁気を防ぐことができたのか。それはケース内にムーヴメントをすっぽりと包む磁気シールド、軟鉄製インナーケースが設けられ、それによってムーヴメントに磁気が及ぶのを防いでいたというわけだ。

 写真は1980年代後半まで製造された旧型のRef.1019の裏ブタを開けたところ。金色がかったパーツがインナーケースである。もちろん現行モデルも基本的な考え方は同じだが、さらにブラッシュアップされていることはもちろん、ムーヴメント自体にもニオブとジルコニウムの特殊合金で作られた耐磁性をもつパラクロム・ヒゲゼンマイが採用されており、従来のヒゲゼンマイに比べて、より高い耐磁性を備えているのだ。

ミルガウスの第2世代、Ref.1016の前期型(シーズ・ファクトリー刊「ゼロからわかるロレックス」より)

 さて再び歴史に話を戻すと、ファーストモデル、Ref.6541が製造されたのはわずか3年ほどだったと言われている。そして、それまでの回転ベゼルにイナズマ針というファーストモデルの個性的な意匠とは対照的に、ベーシックなデザインが採用されたセカンドモデル、Ref.1019(写真)が登場する。

 しかし70年代に入り、より磁気の影響を受けにくい耐磁クォーツが登場するなど、市場での優位性を見いだせずに、33年ほど続いたミルガウスの系譜は88年頃で一旦生産終了となった。

 それから約20年後の2007年。ミルガウスは電撃的に復活を果たす。それが現行のRef.116400だ。ファーストモデルのアイコンでもあったイナズマ秒針までもが再現されたことで大いに注目を浴びた。

Ref. 116400GV。SS(40mm径)。100m防水。自動巻き(Cal.3131)

 当初は、ロレックスのコーポレートカラーであるグリーンがかったサファイアクリスタル風防を採用した116400GV(トップの写真、黒文字盤タイプ)と、通常のサファイアクリスタル風防に黒・白それぞれの文字盤を採用する116400の全3種がラインナップしていた。しかし現在は黒と白文字盤のみが廃番となり、代わりにグリーンサファイアクリスタル風防タイプにZブルーと称される新色(写真)文字盤が14年に加わった、現在はこの2種類のみのラインナップとなる。

 ミルガウスだけが採用するこのグリーンがかったサファイアクリスタル風防だが、公式に発表されたわけではないものの、一説にはこの微妙な透明感のあるグリーンを出すのが技術的にとても困難だったため、最初の頃に生産された個体のそれは、日本のメーカーが作ったと言われ、当時話題を呼んだ。

 現在の国内定価は87万6700円。それに対して並行輸入市場での実勢価格の安値は、7月3日の定点観測によると96万円である。

 さて、次回は後編として、購入のポイントと実勢価格相場について詳しく見ていきたいと思う。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。

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