ドイツ時計 レビュー記事

【実機レビュー】愛好家から好評を得るのも納得の仕上り! チュチマの戦略モデル、パトリア

 2008年に創業の地であるグラスヒュッテに帰郷を果たしたチュチマ・グラスヒュッテがまず取り組んだのは、コレクションのブラッシュアップと自社製ムーヴメントの開発であった。
 前者は、第2次世界大戦期におけるフライバック機能付きクロノグラフやNATOクロノグラフといった、かつて同社が手がけた軍用時計のDNAを受け継ぎつつも、ポップなカラーリングを取り入れることで、より幅広いユーザー層への訴求を図ったのである。グリーンやグレーなど流行りのカラーもいち早く取り入れた同社のラインナップは、近年実に多彩となり、良い意味でポピュラーになった。

 他方、ムーヴメントの自製化についても、かつて培った経験とノウハウを生かし比較的早い段階で実現。13年には完全自社製の3針ムーヴメントCal.チュチマ 617を完成させた。ちなみにこの開発にはマルコ・ラング氏の父でドレスデン美術館の時計修復師であったロルフ氏が携わったという。

完全自社製ムーヴメント1号機となるCal.チュチマ 617。グラスヒュッテストライプを施した4分の3プレートやビス留め式シャトンなど伝統的な意匠を踏襲しつつも、華美になりすぎない質実な作りは、実用を追求するチュチマらしい仕上がりと言えるだろう

 そしてこの自社製ムーヴメントを搭載するコレクションとして今日展開されるのが“パトリア”だ。
 実用を追求した既存のフリーガーやM2といったモデルから一転、パトリアはグラスヒュッテの伝統的な意匠や技法を駆使したドレスウオッチという位置付けにある。当初、ゴールド仕様のみの展開だったパトリアだが、19年に初となるステンレススチール仕様を投入。高品質な仕上がりはそのままに、価格を抑えた戦略モデルとして大きな話題を集めたことは記憶に新しい。

 しかしその話題性に対して、その実機を目にしたことのある人は少ないのではないだろうか。
 というのも、現在、チュチマでは年産5000本ほどだが、その大半はフリーガーなどの実用モデルのコレクションが占める。手作業の割合も多いパトリアの生産数は全体のわずか数パーセントにすぎず、必然的に日本国内への入荷も少ないためだ。

 

実機を見た愛好家から高評価を得たパトリアSS

(右)パトリア アドミラル ブルー/(左)パトリア
“故郷”を意味するラテン語の“パトリア”と名付けられたチュチマ ・グラスヒュッテのハイエンドライン。2013年にゴールド仕様が発表され、19年にスチール仕様が追加された。とりわけ後者はムーヴメントや仕上げをほとんど変えずに、大幅に価格を下げた戦略モデルで、その圧倒的なコストパフォーマンスの高さが大きな注目を集める。
■(右)Ref.6610-01。SS(43mm径/11mm厚)。76万7800円。(左)Ref.6600-02。K18RG。197万3400円。ともに5気圧防水。手巻き(Cal.チュチマ 617/約65時間パワーリザーブ)

 

 さて、そんなパトリアの実機が2020年10月に日本橋三越で行われた“三越ワールドウォッチフェア”のチュチマブースに並んだ。
 ここで初めて実機を見たという愛好家も結構いたようだが、その多くが好印象をもったようだ。実際、SNS上にはパトリアに対して好意的なコメントが多く挙げられている。

 パトリアで注目すべきは、やはりスチール仕様だろう。なぜなら、高い完成度を誇った先発のゴールド仕様と同じムーヴメントと仕上げで、70万円台という魅力的な価格を実現しているからだ。
 文字盤や針など外装のクオリティも確かに良いが、とりわけチュチマ 617の作りは完全自社製1号機というだけあって妥協を感じさせない。巻き上げヒゲやフリースプラングを備えた高級仕様であることに加え、意外と知られていないが、ムーヴメントは2度組みだ。当然ながら、これは手間が掛かるため実践するメーカーは数少ない。それをこの価格帯のモデルで実践するのは、筆者の知る限りチュチマだけである。エングレーブや青焼きなどを用いていないため、見た目の派手さこそないが、むしろそこがチュチマらしい。もっとも、それでも十分すぎるほどに見応えがある。

ブルー文字盤はコールドエナメルを何層にも重ねて光沢感を出している。針も上面に鏡面、サイドには梨地と仕上げを使い分けて立体感を生み出すなど、手が込んでいる

 

巻き上げヒゲ、フリースプラングテンプを採用したロービート機(毎時2万1600振動)。ネジ類は、焼きこそ入れてないものの(おそらくあえてだろう)、入念に磨き上げられている

 パトリアで唯一、気になる点を挙げるなら43mm径という大きなサイズだろう。ただ、デザイン自体はかなりシンプルなため、着けた際にも主張はそれほど強くなく、悪目立ちしにくい。標準的な手首周りの人であればスーツにも違和感なく合わせられるはずだ。

手巻きモデルながら、ケース径は43mm、厚みが11mmとやや大きい。40mmサイズが展開されると、さらに人気を得るのではないか。ただデザインがシンプルで洗練されているため、上品な雰囲気である

 ドイツにはいまなお秀逸な手巻き時計が多く展開されているが、そのなかでもパトリア・スチール仕様は完成度・プライスともに非常に魅力的であり、出色の仕上がりと言えるだろう。

 

文◎堀内大輔(編集部)/写真◎笠井 修

 

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