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【アンティーク時計、不滅の傑作選】オイスターケースを備えた実力派の量産モデル、チューダー“プリンス”

 チューダーのオイスタープリンスが発表されたのは1952年のことだ。ちょうどロレックスのエクスプローラーが発表される1年前である。53年のプリンス広告記事に描かれているのは、ビルの工事現場であったり、バイクシーンだったりとタフな環境での様子を描いたイラストだ。つまり、強靭性、信頼性、高精度を強く訴求したかったことがうかがえる。

ロレックスの防水ケース、オイスターを与えらた自動巻きモデル、オイスタープリンス

1953年に掲載された記事では、“1000マイルを走破したバイクレーサーが着用”など、過酷な環境において実施したテストがイラスト付きで紹介され、プリンスの高い耐久性や堅牢性をアピールした

 ビジュアルこそ違えども頑丈な時計だということを訴求している内容はまさに同時期のエクスプローラーのPR戦略と同じ。当時、腕時計のブランドアイデンティティを明確に打ち出す意味において、“丈夫さ”を訴求することがいかに大切なことだったかが垣間見られるようだ。そのためハンス・ウイルスドルフはロレックスとチュードルを切り離して訴求するのではなく、高い防水能力を誇るオイスターケースというロレックスならではの強みをプリンスにも採用することで、ブランド力を一気に高めたのである。そして、このハンス・ウイルスドルフの巧みなPR戦略は見事に当たり、好調なセールスを記録。加えて同年には26本のチュードル オイスタープリンスがイギリス海軍によるグリーンランドへの科学探査(52年〜54年)に携行され、ここでも正確に時を刻み、プリンスの強靭性、信頼性、高精度さを証明したのだった。
 ちなみにロレックスの自動巻きモデルの総称がパーペチュアルであるのに対して、チュードルではプリンスが自動巻きモデルであることを示す総称となる。

 初代オイスタープリンスとして発表されたRef.7909は、34mmのケースサイズで展開されていた。ムーヴメントには自動巻きCal.390を搭載。これはロレックス製ではなく、フルーリエ製(FEF)ムーヴメントのCal.350をベースに改良されたものである。
 振動数は毎時1万8000振動。ロレックスの1000系ムーヴメントと同じような、バタフライローターと呼ばれる深い切り欠きが付いた特徴的な形状のローターが採用されている。初期モデルにはカレンダー機能を備えたCal.395を搭載したオイスタープリンス デイトもラインナップされた。そして、60年代後半に入ると、ムーヴメントはフルーリエからETA2451ベースのCal.2461に変更された。

左がフルーリエ製ベースのCal.390、右がETA製ベースのCal.2641

 さて、ちょっと話が逸れるが、オールドチューダーを知るうえでロゴの変遷も無視できなことのひとつだ。エリザベス女王1世を含む歴代5人の王を輩出し、国民に知られる名門チューダー家にちなみ、イギリス王朝のシンボルである“薔薇”をロゴに採用したのは有名な話だが、このロゴも時代によって変更されている。
 公式ホームページによると、1946年まで使われていたのが盾の中に薔薇をあしらった通称“盾バラ”。それ以降68年までは薔薇のモチーフのみとなった。一般的には小振りな通称“小バラ”だったが、なかにはインデックスの12の位置に大きく配された通称“デカバラ”も存在した。そして69年に盾をモチーフにしたデザインが採用されるという流れだ。おおよその年代を把握するうえでもぜひ知っておくといいだろう。

 

1952年に誕生した初代プリンスがRef. 7909である。このモデルは55年発表の7950で、7909と同じCal.390を搭載するため、第1世代に分類される

 

搭載ムーヴメントがフリーリエ製からETA社ベースへと変更になったプリンスの第2世代。ノンデイトモデルではCal.2461、デイト表示付きモデルではCal.2484を搭載する

 

1970年代にはプリンスも第3世代へと進化。ムーヴメントは第2世代から引き続きETA社製ベースだが、毎時2万8800振動までハイビート化された2784(デイト表示付き)が採用されている

 

文◎堀内大輔(編集部)

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