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【アンティーク時計の隠れた逸品教えます!】薄型化競争の引き金を引いたユニバーサル・ジュネーブの“ポールルーター”

 クロノグラフで著名なユニバーサル・ジュネーブにいっそうの名声をもたらしたのが、薄型時計の“ポールルーター”である。初出は1954年。スカンジナビア航空のアメリカ便就航を記念してリリースされたモデルであった。名前の由来は、北極点を通過するノースポールルートをたどっていたため。当初はポーラルーター“Polarrouter”だったが、すぐにポールルーター“Polerouter”に変更された。
 最初のモデルは半回転ローター式の自動巻きであるCal.138を搭載していたが、翌年には自社設計の薄いマイクロローター式自動巻きの215に変更。ケースを薄くした結果、このモデルはたちまちヒット作となった。ちなみにポールルーターのケースデザインは、当時弱冠23歳のジェラルド・ジェンタによるもの。彼は文字盤までは監修しなかったらしいが、その滑らかなラグの処理には、後のジェンタ・タッチがうかがえる。もっとも、満を持して発表したマイクロローターは、当初十分な巻き上げ効率が得られなかったようだ。それゆえユニバーサルは何度かムーヴメントを改良。ローターや自動巻き機構を見直した結果、60年代以降のモデルは安定した性能をもてるようになった。

マイクロローターを搭載することで、ケースの薄型化に成功したポールルーター。加えてジェラルド・ジェンタはラグとケースサイドの厚さを同じにすることで、ケースを一層薄く見せた

ユニバーサル・ジュネーブの名声を決定的にしたマイクロローターが、Cal.215である。初出は1955年の春。直径28mm、厚さ4.1mmという、当時としては驚異的な薄型自動巻きだった。なお写真の215-07は、17石仕様のムーヴメント。おそらくはアメリカ向けに開発されたバリエーション違いだろう

 そのためポールルーターを狙うのであれば、あえてハーフローターを選ぶ理由はないだろう。おすすめは、マイクロローターを載せた1955年以降のモデルだ。生粋のコレクターならば、ローターの下に“Patented Rights Pending”の入ったファーストロットを選ぶだろうが、実用性を考えると、年代の下がったムーヴメントのほうが当然良い。
 またポールルーターには様々なバリエーションがある。ジェット、ジュネーヴ、デラックス、スーパー、コンパクト、デイデイト、NS、そしてサブ。人気が高いのは、スーパーコンプレッサーケースを持つポールルーターサブだ。しかし価格は100万円オーバーであるうえ、市場で見かけることは希だ。対してほかのモデルは、タマ数も多いし、手頃なものだと20万円台から狙える。

ポールルーターには様々なバリエーションが存在した。これはアラビアとバーインデックスを持つポールルータージェットである。
■SS(34.5mm径)。自動巻き(Cal.215-07)。1960年代製

 時計界に薄型競争を引き起こすに至った、ユニバーサルのポールルーター。残念ながら、現在ユニバーサルが事実上の休眠状態にあるため、その評価は決して高くない。しかしそのユニークなデザインや優れた実用性は、改めて評価を受けるだけの価値がある。

 

 

文◎編集部/写真◎笠井 修

 

【次ページはポールルーターのバリエーションを紹介】

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