小スライド @kikuchiのいまどきの時計考

1970年代の傑作を復刻。日本でのチューダー人気復活のきっかけとなった“ヘリテージ クロノ”

 2018年から日本での正規輸入が始まったチューダー(正規輸入前まではチュードルと呼ばれていた)は、それまでは長年、並行輸入品としてしか購入できなかったものの、時計愛好家を中心にそれなりに知られる存在であった。理由は単純でロレックスのディフュージョンブランド(廉価ブランド)として設立された経緯から、ラインナップのほとんどがロレックスに準じたかたちでコレクションが展開されていたからだ。

 そんなチューダー人気を支えていたのがチューダー版サブマリーナーや、同クロノグラフのクロノタイムである。しかし、チューダーは1998年頃にサブマリーナー、そして2006年にクロノタイムと、それまでのロレックスのイメージを踏襲していた人気ラインを生産終了させてしまう。

 そして、翌年の07年からは独自色を強めた意匠と新たなケースが与えられたスポーツクロノグラフがクロノタイムの後継機種として登場。さらに09年にはモータースポーツを彷彿とさせる新コレクションが投入されるなど、独自色を急速に強めていったのである。これについては「かつて独自路線を打ち出していた2000年代前半のチューダー」(関連記事参照)と題して書いているためそちらも参照していただきたい。

ヘリテージ ヘリテージ クロノは、当時製品化されなかったと言われる双方向回転式ベゼルのオイスタークロノグラフを忠実に再現している。Ref.70330N。SS(42㎜径)。150m防水。自動巻き(Cal.2892ベース)。定価55万1100円

 ロレックス色がまったくなくなったこのチューダーの新路線は、実のところ日本の愛好家にはまったく響かなかった。そのため筆者が刊行する腕時計専門誌「パワーウオッチ」でも当時ほとんど取り上げることがなかったのである。

 この不人気は日本だけでなく世界的なものだったからなのかは正直わからない。しかしチューダーは2010年になると独自路線から一転して、1970年のわずか1年しか作られなかったと言われるチューダー初のクロノグラフ“オイスター クロノグラフ”を忠実に復刻したヘリテージ クロノを新作として発表したのである。

 特徴的なホームベース形のインデックスと台形のインダイアルという特徴的なデザインが採用された最初のオイスタークロノグラフには、固定型でベイクライト(プラスチック)タイプとメタルタイプ、そして双方向回転式と、ベゼルの仕様違いで3タイプをラインナップしていたが、実際には製品化されなかったと言われる回転式をあえて再現したことから高い注目を浴びた。

1971年にリリースされ“モンテカルロ”の愛称をもつ第2世代。なかでもブルーが採用された希少モデルが忠実に再現された。Ref.70330B。SS(42㎜径)。150m防水。自動巻き(Cal.2892ベース)。定価55万1100円

 そして2012年には、象徴的なイカ針を備えたかつてのチューダー版サブマリーナーを彷彿とさせるヘリテージ ブラックベイを発表。続いて13年には通称“モンテカルロ”と呼ばれるオイスタークロノグラフの第2世代で特に希少とされるブルーカラー採用モデルを再現したヘリテージ クロノ ブルーを登場させる。そして、それ以降もヘリテージ路線のコレクションを充実させていくことで、再び日本でもチューダー人気が復活したというわけである。

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菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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