インタビュー 国産時計 小スライド

【和紙を使っているって知ってた?】日本の伝統工芸を取り入れた国産腕時計

近年の国産時計で非常に存在感を増してきたのが、文字盤や外装に日本ならではの伝統工芸を取り入れたモデルだ。
具体的には琺瑯(ほうろう)、和紙、七宝、陶磁、螺鈿(らでん)、金箔、漆などを採用して、オリエンタルな雰囲気をことさらに強調したモデルが多くリリースされている。あるいはベルトに組み紐を用いたり、日本を代表するタンナーによる革ベルトを合わせたりするのも目立ち、なかには高度な技術を有した高名な伝統工芸士が製作に関わっている製品も見受けられる。これらは製造可能な本数も限られるため、市場でもすぐに売り切れてしまうことが珍しくない。 こうした日本の伝統工芸は、他国製にはない繊細な表現が海外でも高く評価されている。特に漆塗りの微妙な色合いの変化や、陶製文字盤のまろやかな白などは、熟練の職人が手がけることで唯一無二のタイムピースとなる。スイス製とはまた違った豪華な表現も可能で、国産時計の魅力を世界へ知らしめる意味合いも強い。

そこで、今回はこうした伝統工芸系のモデルにも力を入れているシチズン時計で商品企画に携わる市川氏に話をうかがった。


独自技術を最大限に生かす素材を模索して生まれた!

ザ・シチズン 光発電エコ・ドライブ 限定モデル。土佐和紙に金箔を施した“砂⼦蒔き(すなごまき)”といわれる伝統的な技法を⽤いた文字盤を採用する限定モデル。職⼈が⼿作業で仕上げるため、ひとつとして同じ模様が存在しない。 ■Ref.AQ4103-16E。スーパーチタニウム(38.3mm径)。10気圧防水。クォーツ(光発電エコ・ドライブ)。世界限定350本。41万8000円

【文字盤に土佐和紙を用いた限定モデルを見る】

 

現在、ザ・シチズンでは、文字盤に和紙を採用し、従来にないデザイン表現を実現した魅力的なモデルを数多くラインナップしている。
では、“文字盤に和紙を用いる”というアイディアはどのようにして生まれたのか。

「1976年にシチズンが世界で初めてアナログ式光発電時計を発売して以来、エコ・ドライブ時計の開発にとって“光の透過率”と“美しさ”を兼ね備えた文字盤の開発は常に重要な課題であり、常にチャレンジを続けてきました。省電力技術の向上などムーヴメントの進化とともに透過率も改善され、デザインの自由度が広がり、エコ・ドライブ用文字盤の色調や文字盤の仕上げ加工技術など見栄えは格段に向上していったのです。
しかしそれでも、さらに美しい色は出せないかを日々模索しており、その解決策のひとつとして“和紙”に注目しました。和紙は古くから障子や行灯など、対象を覆いながら光を通す素材として用いられており、エコ・ドライブの求める文字盤の素材として良いのではと考えたのです。同時に、長くパートナーとしてご愛用いただくことを目指した“ザ・シチズン”では、“美しい白”文字盤の開発も模索しており、和紙文字盤で表現できる美しい白色が目的にフィットしたのです。これが2017年に初めて和紙文字盤を採用するにいたった経緯です。それ以降も、白以外の表現や箔を合わせたり、藍染めをした文字盤など、色調だけではなく和紙独特の風合いも含め、その魅力を引き出す表現を探求し続けていまに至ります。“伝統的な素材を使おう”というのがスタートであったわけではなく、あくまで美しい白を求めて行き着いたのが“和紙”だったのですが、結果として質感や風合い、さらには伝統と進化などその素材の製造過程がもつストーリーをも含めてエコ・ドライブ、そしてザ・シチズンにとって非常に大切な文字盤素材になったというわけです」(シチズン時計 商品企画部/市川氏)

光発電ムーヴメントを搭載するモデルは透過率を高めるため、内部が透けて見えるクリアな文字盤を採用することが多い。しかしこの場合、どうしてもカジュアルな印象が強くなってしまい、高級時計として打ち出すのはなかなか難しい。その点、シチズンの和紙文字盤は高級感があるうえオリジナリティーも備えている。高級時計として打ち出しても何ら申し分ないだろう。 もっとも、実用化に至るまでには多くの苦労もあったようだ。

「素材の特徴である繊維の取り扱いにおいて、いかに毛羽立ちを防ぎながら加工するか、という点などは工夫が必要でした。また、透過率をキープしながら、時計の文字盤として組み込むため、均一な厚みの管理が求められ、和紙を制作する方に何度も試作をお願いするなどご協力をいただきました。その甲斐あって、ほかにない独特の風合いや美しさが表現でき、特に海外のお客様には日本の伝統的な素材を使っているという面白さも感じていただいております」

シチズンほか国産の大手メーカーは、すでにフラッグシップラインを中心にこうしたモデルを多くリリースしており、最近では小規模ブランドでもこうしたモデルは増えている。今後も注目したい技法だ。

 

【問い合わせ先】
シチズンお客様時計相談室
TEL.0120-78-4807
公式サイト
https://citizen.jp/the-citizen/special/index.html

 

構成◎堀内大輔(編集部)/文◎巽英俊

 

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