最近では“腕時計は時代遅れ”という風潮も一部で見られるようだが、実際には今時の若者、いわゆるZ世代に腕時計はウケていないのかというと、実はそうでもないことに気付く。“タイパ”という言葉にも現れているように、時間を大事にする感覚が強いため、腕時計を日常的に着けている若者は案外多い。
Z世代が購入するポイントとして特筆すべきは、手頃な価格で安定した品質を求めるという点だ。高級時計の全盛期とも言えるX世代やY世代とは違い、高級時計を至高とはしていない。ファッションアイテムには、模倣や複製を意味する“Dupes(デュープス)”と呼ばれるアイテムを使用する傾向が強い。高級ブランド品でなく、それらからインスピレーションを受けた、手頃な価格帯の商品が市場にはあふれている。ミレニアル世代に続き、経済的に余裕がないZ世代もまた、高級品には手が届かない、優先的に購入すべきものではないという背景から、デュープスを購入する若者が増加した。
こうしたZ世代のファッションアイテムへの需要の変化を受け、国内腕時計メーカーでは、Z世代向けモデルの開発も進めてきた。
■セイコーからZ世代向けブランドが誕生
Z世代の購入傾向をいち早く察知したのがセイコー。Z世代向け腕時計としてセイコーが打ち出したブランド “フュージョン”は、手頃な価格に抑えつつ、セイコーという安定感も持ち合わせている点でZ世代に刺さりやすい。ジェンダーレスのデザインを展開したことも大きな特徴。
またZ世代では、ガラケーやデジタルカメラ、フィルムカメラなど2000年代のアイテムも流行。この流れはY2Kと呼ばれ、ファッションでは、ローライズのデニムや厚底靴などが再燃している。おじさん・おばさん世代にとっては懐かしく感じるアイテムを新鮮なものとして受け入れる、腕時計界にもそんな傾向が見られている。
フュージョンのデビューモデル"90’s ファッションミックス"は、90年代に流行したカラフルなファッションをイメージ。70年代の腕時計モデルと融合したデザインで、カラフルな文字盤が目を引く。
男性に根強い人気を誇るミニタリーウォッチも、70年代のモデルをベースに4モデルを展開した。
70年代のモデルと決定的に違うところは、秒針にネオンカラーを取り入れている点。シンプルなワントーンだが、アクセントが入っているのがZ世代らしいデザイン。なお、どうやらフュージョンは2024年1月時点で生産を終了しているようだ。
■G-SHOCKではユース向けモデルに若手起用
G-SHOCKでは、ユース向けモデルとプレミアム向けモデルを分けている。プレミアム向けとしては10万円台を中心にしたモデルを展開するが、ユース向けモデルには1万円台からのモデルを発表してきた。社内では、企画やデザインにZ世代を起用するなど、新しい視点での商品開発に取り組む。
玉虫色を意味する“イリディセントカラー”は、蒸着印刷をガラス面全面に取り入れている。蒸着印刷という技術自体は、新しい技術なわけではない。これまではガラスのフレームとして使用されることがメジャーで、ミラーのような輝きがアクセントとなっていた。この蒸着技術をガラス全面に取り入れてみたのは若手社員のアイデアだという。
多くの商品開発でベテランが中心となっていたなか、若手中心の企画を進めることで、イリディセントカラーにたどり着いた。男女ともに使いやすいデザインで、文字盤はアナログタイプやデジタルタイプをそろえている。
また、蒸着印刷によってグラデーションは個体差がある。自分だけのオリジナル感があることも、Z世代には魅力なようだ。
■進化する腕時計ブランド
実は今回の記事を読んで、カシオ、セイコーなどはやはりまだまだ現役だな、と安心したアラフォー、アラフィフ陣も多いのではないだろうか。高級志向が薄れてきた今、若いころに買った腕時計をしていても、むしろ恥ずかしいことはない。そればかりか、いつまでも過去の価値観にすがりつく “X世代” “Y世代”という目で見られないだけ、いいかもしれない。
もう腕時計は終わった、などと言わずに、トレンドをチェックし、ファッションや腕時計をまだまだ楽しんでほしい。
文◎トレンドライター ゆい