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【軍用時計のデザイン】イギリス軍が40年代に明文化。12社が製造した“ダーティダース”とは|菊地吉正の時計考_009

ダーティ・ダーズのデザインを表現したアウトライン・ミリタリーType1940。5万600円

かつて軍事目的で製造された腕時計のミリタリーデザインはいまなお数多くの製品で採用されている。そして腕時計の分野では独立したポジションを確立するほど人気が高い。理由は、無駄な装飾もなくシンプル。そして古風で落ち着いた雰囲気かつ適度に主張もあってファッションにも合わせやすいメリットがある。男性にとっては戦場を駆け抜けてきた歴史的な背景にも男らしさを感じるのではないか。

そんなミリタリーウオッチだが、このデザインはどこからきたのだろうか。筆者が刊行した「Antique Collection 3 軍用時計大全」から引用すると基本は大きく二つ。
1、大きめのアラビア数字
2、太い時分針
つまり、端的に視認性(判読性)を重視するための機能的なデザインとして、かなり古くから採用されていることがわかる。戦場という過酷な条件下で「時間」は生死を分けるという意味においても重要だったに違いない。

1940年代(正確には1944年以降)にイギリス軍向けとして開発された管理コード“W.W.W.”。通称“ダーティ・ダース”はこのミリタリーデザインを含めて軍用時計のスペックを明文化した。

“W.W.W.”は、軍用であるための条件として、第1に“防水性能があること”に加えて、“15石の手巻きスモールセコンドムーヴメントを搭載すること”、そして“黒文字盤で夜光インデックスを採用し、ケースのベルト取り付け部分がハメ殺しであること”といった規格が定められていた。なおW.W.W.とは“Water proof Wrist Watch”の頭文字からとったもので、防水腕時計を意味する。

当時、この製造を手がけたのは、すべてスイスの時計メーカーだ。具体的に名前を挙げると、ビューレン、レマニア、ティモール、ジャガー・ルクルト、シーマ、オメガ、バーテックス、レコード、IWC、ロンジン、エテルナ、そしてグラナの計12社にも及ぶ。つまりこれが囚人12人の傭兵を描いた1967年の戦争映画「The Dirty Dozen(邦題:特攻大作戦)」にちなんだ愛称が付いたというわけだ。

そしてこれら12社が製造した“W.W.W.”は、その中のひとつとして写真を掲載したオメガのデザインとほとんど同じなのである。そのため冒頭に紹介した「Antique Collection 3 軍用時計大全」の表紙は12社が製造した“W.W.W.”の当時の時計12本を撮影、軍用時計の象徴としてその写真で構成している。

「軍用時計大全」の表紙を飾る12社の“W.W.W.”を見る!

“W.W.W.”のミリタリーデザインは、後に登場するIWCのマーク11や50年代にアメリカ軍が採用したハミルトンやエルジンなどの軍用時計を見てもしっかりと受け継がれていることがわかる。このように「時間を知る」道具として視認性を最優先したミリタリーデザインは、まさしく実用性から生まれた究極のデザインであり、変えようがないぐらい完成されたものだったと言えるのだ。

アウトライン・ミリタリーType1940の詳細はこちら

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菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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