●現在の職業とかけがえのない宝物
小説家として生計を立てていくことの厳しさを痛感していた頃、現在の職業である“オンライン家庭教師”の仕事に出合う。
「パソコンで小説を書いていたときに、たまたまオンライン家庭教師の求人を見つけて。パソコン1台でできるじゃん!って軽い気持ちで始めたお小遣い稼ぎの仕事が、いまや職業になってしまいました(笑)。自宅マンションの寝室を仕事部屋に改造し、Zoomを使って授業をしています」

現在の大泉さんとオンライン授業の様子
当初は大学受験生がメインだったが、3年ほど前からSNSアカウントを開設。飾らない等身大の投稿が支持を集め、中学受験生の保護者の方からのメールやDMが増加したことで、現在は中学受験生の指導がほとんどだそう。秋〜冬の受験直前などの繁忙期は1コマ90分の授業を1日6〜7コマ、週45コマほどこなしているというのだから驚きだ。
そんな大泉さんの宝物と呼べるものが、生徒さんとの思い出が詰まった“赤本(過去問集)”だ。

約400冊にのぼる赤本が収められた本棚。何冊か同じ本があるものの、1冊も捨てていないそう
「1冊1冊に、これまで担当してきた生徒さんとの格闘のあとが刻まれています。商売道具という意味でも大切ですが、生徒さんとの“あの日あの時の苦闘の思い出”として捨てられずにいます」
なかには入手困難なものもあるため、古本屋はもちろん、ときにはフリマアプリなども活用しながら生徒さんの志望校の赤本を探すこともあるそう。
「やっとの思いで見つけた1冊3万円もした赤本の学部に生徒さんが合格した際は、いろんな意味で本当に良かったと思いました(笑)。もちろん、ほかにも忘れられない思い出は山のようにありますよ」
オンライン家庭教師としては今後はSNSだけでなく、ホームページやブログでの集客も始めていきたいと話す。以前注力していたTikTokを使った解説動画も再開予定とのことだ。
●時計の好みは“ゴツくて多機能なタイプ”
授業の際には置き時計やストップウオッチは重宝するものの、現在はあまり腕時計は着用しないという大泉さん。学生時代にはG-SHOCKをいくつか愛用しており、現在の好みもクロノグラフのようなゴツめで多機能を備えたタイプだそう。
「社会人になってからは時計そのものに実用的な興味しかなくなり、実はいま、腕時計はひとつしか持っていません。以前から尊敬していた芥川賞作家の丸山健二さんにお会いする機会があり、そのときお会いするのがちょっと怖かったんですよね。それで『時計だけでもギラギラさせてやる』とイキがって購入したんです」
緊張を和らげるとともに、自分を奮い立たせるという役割で久しぶりに購入したという腕時計。なかなかユニークな動機だが、どのようにモデルを選んだのだろうか。
「とくにこだわりはなかったのでブランド名もまったく気にせず、直感でなんとなくデザインが気に入ったものを通販で購入しました(笑)。以来本当に大切な方々と会うときにだけ着用しています。大好きな人たちと過ごした時間がこの時計に込められているような気がします」

G-SHOCKは人気の三つ目モデルなど、デジタル表示のタイプが好きだという(写真左)/いま唯一所有している中国ブランド、BENYAR(ベンヤー)の腕時計(写真右)
●「5年後には田舎で小説執筆に没頭したい」
50代に入り、節目である還暦も近付いてくるなか、今後は少しずつオンライン家庭教師の仕事量を減らしながら再度小説家としての挑戦を目指すそう。
「若いころはプライドも高く『芥川賞を受賞しなきゃ意味がない』『名も知らぬ出版社からは絶対に出さない』など自分を苦しめていましたが、いまではそういう気持ちがなくなり、自由に書けるようになってきました。家庭教師の仕事を全力でやるのはあと5年くらい。その後は島根県の郊外で暮らしながら小説を書きたいです」
小説執筆に没頭できる未来を作るという意味でも、オンライン家庭教師としてはいまが一番の頑張り時だという。最後に、次に執筆予定の小説における現段階での構想をお聞きした。
「しっかり読んでいただける、ストーリーが面白いものを書きたいです。推理小説まではいかなくとも、エンタメとして成立するようなものですかね。小難しいものではなく、誰もが楽しめるような内容を目指します」
取材・文◎市村 信太郎