パネライのヴィンテージモデルが、予想最高落札価格の3倍以上で落札

 2020年11月30日に香港で行われたフィリップスのオークションにパネライの4種類のヴィンテージモデルが出品された。そして、そのなかのルミノール マリーナミリターレ、Ref.6152/1は、推定落札価格24万〜48万HKドルに対して3倍以上となる163万8000HKドル(約2260万円)で落札された。

 この個体は1960年代半ばにイタリア海軍向けに製造されたもので、自発光物質としてパネライが開発したラジオミールに変わる新しい発光素材、トリチウムベースの “ルミノール”が最初に採用され、それをPRするために特別に作られたものらしいのだ。

今回、予想落札価格の3倍以上もの金額で落札されたルミノール マリーナミリターレ(写真:フィリップス)

 実はルミノール自体、1949年にすでに開発され商標「LUMINOR」として登録されていたのだが、1960年代半ばまで使用されなかったと言われる。そのためこの時点では、文字盤には「ルミノール」ではなく“マリーナ ミリターレ ルミノール パネライ”と4行で大きく表示されている点も大きな特徴となっている。

 なお、ケースバックの中央には無害な発光化合物を示すため大きな“I”が刻印されている。 “I”は、無害を意味するイタリア語の“innocuo”、またはルミノールが発する光の強度を指したものだと推測され、ラジオミールとの違いをアピールする狙いがあったことがうかがえる。

 そして、大型のクッションケースには、ロレックスのクラウンマークが刻印されたビッグリューズが装着されている。これはロレックスからイタリア海軍用に1955年に供給されたケースが使われていることを意味していると考えられている。搭載するムーヴメントは、スイスのムーヴメントメーカー、アンジェラス社製の懐中時計用で、8日巻きムーブメントのCal.240だ。

 さて、ヴィンテージパネライのこれまでの最高落札価格は、2014年にジュネーブで開催されたサザビーズのオークションで樹立された。ルミノールの希少な1955年製モデルで、42万5000スイスフラン(現在の価格で約4880万円)という記録的な金額を提示したパネライ愛好家によって落札されたものである。

日本の時計雑誌の表紙に掲載されたモデルが出品!

すべて1960年前後に製造されたヴィンテージのパネライ(写真:フィリップス)

 さてほかの3本は次のとおり。写真左は、よく知られるエジプト海軍向けに開発された1956年製のラジオミール エジツィアーノ、Ref.GPF2/56。落札額は138万6000HKドル(日本円で約1860万円)。中央の個体はルミノールマリーナ、Ref.6152/1だが、イタリア海軍に納入された中でプラスチック製の回転ベゼルを備えたプロトタイプと思われるもの。1960年代製で落札額は126万HKドル(日本円で約1690万円)。

 そしてこのなかで最も興味深いのが、右の1960年代製のルミノールマリーナ、Ref. 6152/1だ。見た目は単なる古いルミノールマリーナという雰囲気なのだが、フィリップスの公式WEBサイトの説明によると、驚いたことに1992年に日本の時計雑誌の表紙に掲載されたものだというのだ。そしてその雑誌に特集された16ページのパネライの記事は、パネライ社が1993年にルミノールマリーナを復活させるきっかけのひとつとなったというのである。落札額は90万7200HKドル(日本円で約1220万円)。

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。