かつて人気を博した90年代の時計たち! 【第12回|ゼニス クロノマスター T エル・プリメロ】

 当連載の第4回で取り上げたレインボーフライバックよりも3年早い1994年にリリースされたクロノマスター T エル・プリメロを今回取り上げる。このモデルもレインボーフライバックと同じくムーヴメントはエル・プリメロだ。

 以前の記事ではこのエル・プリメロについて触れてこなかったため、ここで簡単に紹介しておきたい。エル・プリメロとは“ナンバーワン”を意味するスペイン語。毎時3万6000振動(現在、ほとんどの機械式時計が毎時2万8800振動)という超ハイビートムーヴメントとして1969年に開発された。キャリバーナンバーは3019PHCだ。10分の1秒単位でのクロノグラフ計測を可能とした、世界最高峰の自動巻きクロノグラフムーヴメントとしてゼニスの名を世界に知らしめた。

 ただ、スイス時計産業が斜陽化するなか1972年にアメリカ資本に買収され市場から姿を消してしまう。その後78年にスイス資本の企業に再び買収されたことを機に、当時の技術者が隠し持っていたとされる図面を元にCal.400として復活する。84年のことだ。そして88年にはロレックスのデイトナに採用されるなど、その実力の高さは健在だった。
 
 以前取り上げたレイボーフライバックは、このCal.400にフライバック機構を追加したCal.405を搭載する。一方の今回取り上げたクロノマスター T エル・プリメロには、日付け、曜日、そして月表示に月齢表示を加えたトリプルカレンダームーンフェイズを装備したCal.410が搭載された。

1994年にリリースされたクロノマスター T エル・プリメロ。クロノグラフに加えてトリプルカレンダーとムーンフェイズ機構を備えるなど実用機能が満載だ

 クロノマスター T エル・プリメロの最大の魅力は、多機能さはもちろんだが、スポーツモデルながらもクラシカルで落ち着いた雰囲気なところだと思う。文字盤には、クロノグラフの積算計にスモールセコンドを加えた三つのインダイアルと日付け、曜日、月の三つのカレンダー表示。これほど要素が多いとごちゃごちゃしそうなものだが、そこはしっかりと計算され、とてもバランスよくデザインされていることがわかる。ビジネスシーンにも合わせやすい大人っぽさが魅力的だ。

水平クラッチの動きや複雑なレバー類の取り回しなどは、現在のクロノグラフムーヴメントでは決して見られない

 当時、エル・プリメロといえば人気の中心はレインボーフライバックだった。スポーティーで見た目にも派手めでカッコよかったからなのだが、もうひとつ50万円以上という価格差も大きかったに違いない。50万円台のレインボーに対してクロノマスターはトリプルカレンダーという複雑機能を搭載するモデルだったこともあって112万円と当時としてはかなり高額だったのだ。

 ただこのCal.410は、当時112万円という定価だったとはいえ、機構自体はかなり複雑な作りだったこともあって、その価格でも割に合わなかったのではないかと言われたほどだった。現在のユーズド実勢価格は30〜50万円台。

クロノマスター T エル・プリメロ
■商品データ
生産終了年:2002年頃
素材:ステンレススチール
ケース径:40mm
防水性:30m防水
駆動方式:自動巻き(Cal.410)
その他:クロノグラフ(30分積算計、12時間積算計、クロノグラフ秒針)、スモールセコンド(9時位置)、トリプルカレンダー(日付け、曜日、月表示)、ムーンフェイズ
当時の国内定価:112万円(税抜き)

菊地 吉正 – KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。