はじめてのアンティーク時計におすすめな定番モデル-其の4【キングセイコー】

 はじめてアンティーク時計を購入しようとお考えの人におすすめしたいのが、“定番”と呼ばれるモデルだ。常道ではあるが、ことアンティークについては現行品以上に定番を選ぶメリットは大きいといえる。
 そのメリットのひとつが“高い信頼性”だ。
 アンティークはやはり古いものだけに、ある程度の不具合が出るものだが、今日、定番と呼ばれるものは、ムーヴメントにせよ外装にせよ、しっかりと作り込まれているモデルが多いため、それが少ないのである。特にアンティーク時計の扱いに慣れてないうちは、こうしたモデルを選んだほうが安心であることはいうまでもない。そこでアンティーク時計で定番と呼ばれるモデルを取り上げ、その魅力を探る本連載。4回目となる今回は、キングセイコーを紹介したい。

定番-其の1【デイトジャスト】
定番-其の2【コンステレーション】
定番-其の3【ヨットクラブ】

 

定番-其の4/セイコー キングセイコー

 国産アンティークを代表するモデルとして知られるグランドセイコーとキングセイコー。“スイス腕時計を凌駕する精度”を目指して、前者が1960年、後者が61年とほぼ同時期に展開が開始されたモデルだ。
 ちなみに当時の価格は前者が2万5000円で、後者が1万5000円。上級国家公務員の初任給が1万2000円だったことを踏まえればいずれも高級品であることに違いないが、前者のほうが1万円も高額だったことから上位と捉えられている。
 こうした背景もあって、現在の市場ではグランドセイコーのほうが人気は高く、そのぶん相場は割高だ。さらに近年は海外ユーザーからの注目も高まっており、いっそう高値が付くようになった。

 対してキングセイコーは製造数が多かったこともあって、まだまだ値ごろな相場で流通しており、なかには10万円以下で狙える個体もある。
 しかし手頃だからと言って、性能面でキングセイコーが大きく見劣りするというわけでは決してない。精度は十分優れているし、普及機というポジションだったことから、実用としてもよく考えて作られているため扱いやすいのだ。

グランドセイコー(60年)が諏訪精工舎で製造されたのに対して、キングセイコー(61年)は第二精工舎で製造された。2021年、セイコー創業140周年記念としてキングセイコーの復刻版が登場し話題となった。写真は1960年代製の44キングセイコー 。キングセイコーでは、2代目以降、ハック機能が追加されたほか、裏ブタもネジ込み式が採用され、気密性を高めるなど、実用性が向上している。参考価格10万円

 

 加えて搭載するムーヴメントやデザインの違いによって、様々なバリエーションが展開されているため、好みを探す楽しみもある。クロノスで採用していた54系キャリバーを踏襲したムーヴメントを搭載した初代モデル、そのムーヴメントを改良した44系キャリバーを搭載した2代目(64年)、さらに手巻きの45系や自動巻きの56系、52系キャリバーと様々なムーヴメントが製造され、デザインバリエーションも非常に多かった。

キングセイコーでは、クロノメーターモデル(自社認定/写真右)やスーペリア クロノメーター(公式認定/同左)といった希少種が存在するほか、ディテールの細かな仕様違いなども複数確認されている。こうした仕様違いを楽しむコレクターも結構多い

 こうなるとどれを選んでいいか迷いそうなところだが、いずれも性能が優秀だったため、“どれを選んでも失敗が少ない”(もっとも動作確認は必須)というのがキングセイコーの魅力である。

 なかでもビギナーにおすすめしたい理由のは、手巻きの45系搭載のキングセイコー。45系は毎時3万6000振動のハイビート仕様で、後に天文台コンクール仕様などのベースにもなった高精度ムーヴメントである。それだけにきちんと整備された個体ならば、いまなお驚くべき精度を期待できるだろう。加えて厚みが3.5mmしかなく、ケースも薄いため、装着感も快適だ。

(左から)SS。手巻き(Cal.4500A)。参考価格14万円/GF。手巻き(Cal.44A)。参考価格10万円/SS。自動巻き(Cal.5246 A)。参考価格12万円

文◎堀内大輔/写真◎笠井 修