芸能人の愛用時計

左 とん平 -男の肖像時計の選択(パワーウオッチVol.60)

フォーマルな格好や、アクセサリーとして時計がないと淋しいなと思うとき、身に着けるのがたいていこのロイヤルオーク。「時間を知るためというより、ファッションという感じだね」

 

「時計にあまり興味がないから、名前もすぐ忘れちゃうんだけど、これは気に入ってる。ふと見た瞬間の感じが好きだね。薄くてシンプルなんだけど、がっちりした雰囲気を醸し出していてさ」

そういいながら見せてくれたのはオーデマピゲのロイヤルオーク。10年ほど前、奥様から誕生日にプレゼントされたものだ。

「いろんな方からときどき高価な時計をいただくんだけど、どうも重いのがダメで。そうそう、後は、小野ヤスシからもらった時計が好きかな。昔あいつがホールインワンを記念してみんなに配ったんだけど、ああいう安くてどこへ忘れても平気な時計は気が楽でいいね」

ふだんは時計をしない。だが、仕事で海外や地方へ行く際は必ず身に着けるようにしている。

「昔、一度だけ地方で寝坊して、11時開演の舞台に30分遅刻したってことがあって、それ以来怖くて自宅を離れる仕事の場合は時計をしていきます。人間はいい加減なんだけど(笑)、基本的には時間厳守なんだよ、俺。芸能界へ入ったとき、先輩に“この世界でやっていくなら時間は守れ”と言われたのがずっと頭にあるからね」

20歳で芸能界へ入り、すでに50年以上。ベテラン俳優である。

「時計同様、正確に時を刻みながら歩んできたわけなんだけど、なぜだか時の流れっていうのは早く感じてしまうものだよね。若い頃からカッコイイじいさんになりたいって言ってたんだけれど、もうすっかりじいさんだもんなあ(笑)。でも、今が一番いい。若いときにああしたかった、こうしたかったっていうのは多少あるけれど、戻りたいと思わないね、不思議なほど」

特にデビュー直後の20代から「ヘイ・ユー ホワッチャ・ネーム!」が流行語となり、人気が沸騰した30代の自分は嫌だという。

「あの頃の作品をたまに観るとさ、前へ進むことばかり考えていた自分を思い出すの。ただ突っ走っていただけというか。確かに若いから芝居の動きにキレがあるんだけど、味がないんだ。人間の味は金に困ったり、いろいろ苦労したり、経験と年齢を重ねないと出てこないものなんだよなあ」

40代のとき、自分の過ちでどん底を経験した。しかし、その苦しみがあったからこそ、今は役者としての時間を何より大切に思える。

「芝居をしている時間が好きだしね。役者になって良かったとしみじみ思う。舞台やテレビでお客さんに笑ってもらえるってことが心底嬉しいし、ありがたい。もういつ死んでもいい歳なんだけど(笑)、死ぬまで演じていたいよね」

憧れるのはジャン・ギャバンや高倉健さんのように、そこにいるだけでカッコイイ役者。そのたたずまいはおのずと左手のピゲと重なる。その瞬間、とん平さんの好きなもの、引かれる人の共通点が見えた気がした。

 

左 とん平俳優)
TONPEI HIDARI 1937年5月30日、東京都生まれ。59年ラジオ番組に出演し、芸能界デビュー。コメディアンとして東京・新宿コマ劇場などで活躍した後、ドラマ「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」に出演し、人気を博す。その後も「ムー一族」「銭形平次」「はぐれ刑事 純情派」などにレギュラー出演。73年に流行語ともなり、大人気となった「とん平のヘイ・ユー・ブルース」は95年にリバイバルヒットしている。2000年にはCDシングル「人間って何だろう」も発表。近年も個性派俳優としてドラマ、映画、舞台で活躍し続けている

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