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知っておきたい、焼け具合が微妙に影響するトリチウム夜光のこと!|菊地吉正の【ロレックス通信 No.207】

トリチウムが経年変化で変色して飴色になった、1970年代のサブマリーナー、Ref.5513

前回のテーマではサブマリーナーの回転ベゼルについて解説したが、今回はその記事の中でも触れたトリチウム夜光について取り上げてみたいと思う。

夜光素材は暗所でも時間を確認するためにインデックスや針などに20世紀前半から使われるようなった。特に軍用として重要性は高かったと言える。

当初は放射性物質であるラジウムが使われていたが、放射線の人体への影響を考えて使用が制限されるようになり、1960年代に入るとその代替えとして放射線量が低いトリチウムが使われるようになる。

そして、このトリチウムを使用した個体には、人体に影響がないという基準である25マイクロキュリー以下の放射線量を示す「SWISS - T<25」と文字盤の6時位置に記載されるようになったというわけだ。

トリチウムは経年によって変色を起こしやすいという特徴があり、紫外線や湿度などの影響で個体によっては夜光部分が飴色に変色し、いわゆる“焼けた”状態になる。つまり、これがなんとも味のある雰囲気ということから、とりわけアンティーク愛好家はこの焼け具合の色みにごだわって探す人は多い。

トリチウムを使用している個体には6時位置に「SWISS-T<25」と記載されている。その後ルミノーバに変更されると「SWISS」→「SWISS MADE」と表示も変更された

そのため特に90年代の個体の購入を考えている人は、トリチウムの有無によっても違ってくるし、たとえトリチウムであったとしてもその色味によっても微妙に実勢価格に影響することを、覚えておいてもらいたい。

なおトリチウムが使用されていたのは90年代後半(97年あるいは98年とも)まで。ただ、人体に影響がないとはいえ放射線を発する物質には変わりはない。そのため健康への影響が危惧されて徐々に使用されなくなっていった。

その後、ルミノーバから2000年頃に開発されたスーパールミノバ(ルミノーバをベースに開発)、そして2007年からはロレックス独自のクロマライトという夜光に変遷していく。これらの夜光素材については関連記事を参照していただきたい。

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菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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