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【フランスの新鋭、BALTIC(バルチック)】来日したCEOに新作の魅力とブランドの展望を直撃取材

機械式時計黄金期とされる1940~60年代のデザインをうまく取り入れ、リーズナブルな価格帯で展開しているフランスの時計ブランド、バルチック。父がアンティーク時計のコレクターだったというエティエンヌ・マレク氏がデザインを、同じくクレモン・ダニエル氏がマーケティングやビジネスを担当して2017年に立ち上がった新興ブランドだが、デザインの個性や仕上げの美しさが目利きの時計ファンから注目を集めている。

いわゆるマイクロブランド(数百個単位で商品を製造し、BtoCで個性的な時計を販売する小規模の独立系時計ブランド)としての成功例であり、バルチックに続きたいという後進ブランドも多い。先日同社のクレモン・ダニエル氏が来日した際、マイクロブランドのトレンドや、その中でのバルチックの立ち位置、さらには新作の魅力などについて話を聞く機会を得た。


―ここ数年の間に日本でも時計好きのなかでマイクロブランドというカテゴリーが知られるようになり、日本に流通するブランドも増えてきました。欧米のマーケットではすでにひとつのジャンルとして確立しているように思えるのですが、“マイクロブランド”というカテゴリー自体をどう捉えていますか?

バルチックの共同創設者であるクレモン・ダニエル氏

ダニエル:定義はなかなか難しいと思います。基本的には大手資本から独立しているインディペンデントなブランドであることが第一義。それといきなり大手の代理店と契約するのではなくて、インターネットでのBtoC(企業が直接ユーザーにプロダクトを提供)販売を主軸に成長しているブランドが多いですね。マイクロブランドはSNSの利用法に長けていますし、販売スタイルが従来の時計ブランドとは異なっているんです。まだ若いスタートアップが多いし、個人的には10年20年と続いているような歴史あるブランドは、小規模でもビジネスのスタイルも私たちとは異なっていて、もはやマイクロブランドとは言えないと思います。バルチックはまだ設立6年ほどの若い会社ですし、インスタグラムなどのSNSをうまく利用して、少しずつ支持を拡大しながら成長してきたブランドです。他のマイクロブランドもそういうスタイルが多い印象ですね。

―最近は休眠していた老舗ブランドを掘り起こして、再興させる動きも目立ちますが。

ダニエル:アメリカなどではクラウドファンディングなどからスタートする新興ブランドが増えているし、それらはマイクロブランドという定義の中に入ると思います。一方で過去に存在した時計ブランドを復興させて再ローンチする動きもありますが、そういうレガシーのあるブランドは、私たちのようなマイクロブランドとは少し意味が異なる気がしますね。マイクロブランドはただ単に規模が小さいブランドではなく、あくまでインターネット以降のビジネススタイルを取り入れていることが重要なんです。

―様々な意見があると思いますが、編集部では年間生産本数が1万本以下で、創業者のクリエイティヴィティが強く反映されているブランドをマイクロブランドと定義しています。

ダニエル:なるほど。たしかに大手ブランドのコピーみたいな時計を作っているだけでは面白くないですからね。マイクロブランドの隆盛が始まったのが2010年くらいで、そのころからアメリカ市場でクラウドファンディングを利用して、ネットでの直販から立ち上がっていくブランドが増えてきた感があります。リーズナブルな価格帯のマイクロブランドが多いのも特徴だと思いますが、ネット通販と相性が良いのでしょうね。高額な時計はどうしても実機を見ないと不安で買いづらいけど、リーズナブルなマイクロブランドの時計は、ウェブで見て躊躇なく注文する人が多いんです。

―ブランドを立ち上げてから、ビジネスの環境の変化はどう感じていますか?

ダニエル:ここ5年くらいで時計の価格相場が非常に高騰しているし、同時に時計ファンの熱量も上がっています。ロレックスやオメガなど大手メゾンの時計はダイレクトに価格アップしているし、中古時計市場も過熱気味です。価格が上がっているのは戦乱などによるサプライチェーンの落ち込みもあるでしょうし、過大な需要もその理由でしょう。ただ、そうした高価な時計に手が届かない人にも、お手頃なマイクロブランドの時計は今のところアピールできています。この過熱気味の時計市場の熱が下がったときのために、われわれはカスタマーに対してきちんとブランディングをして、自分たちの立ち位置を提示しておかなければなりません。そうでないとブームが去ったときに生き残れない。

―今のバルチックの時計が人気を集めているのはどこの市場ですか?

ダニエル:だいたいアメリカ市場が4割くらいを占めていますね。あとはヨーロッパや日本などのアジア圏です。ロンドンやパリなどでは、マイクロブランドに特化したコレクターという新たな時計ファン層も生まれています。リーズナブルで個性的だし、大金をかけなくても少しずつ集めていくことができて楽しめる。高い時計を持っているけど、盗まれてしまうのを警戒して、ふだんはマイクロブランドの時計を使っているという人もいますよ(笑)。

―新作エルメティック ツアラーも美しい時計で完成度が高いですね。

新コレクションとして登場したフィールドウオッチ、“エルメティック ツアラー”。個性を備えつつ、シンプルで機能的な文字盤デザインも目を引くが、特筆すべきケースと一体化するように埋め込まれたリューズ。これにより衝撃を受けにくく、かつ快適な装着感を実現している。

【最新作エルメティック ツアラーの全ラインナップを見る】

ダニエル:エルメティック ツアラーは、バルチックでは初となるフィールドウオッチですが、ドレッシーな雰囲気も漂わせていると自負しています。デザインが完成するまでに3年間かかりました。ケースは1ピース構造ですが、ベゼルにポリッシュ仕上げ、ケースにヘアライン仕上げと、質感を使い分けることで立体感を出しています。

シンメトリーを強調するためにリューズは埋め込み式になっていて、インデックスはスーパールミノバの塊を成形した大きなものを採用して、デザイン的なアクセントになっています。ステップベゼルを採用したことで、ヴィンテージなミリタリーウオッチ風の雰囲気がうまく演出できたと思います。

―今後は今までのバルチックとは異なるライン展開などは考えていますか? 例えばもう少し高価格帯のモデルをリリースするとか。

ダニエル:まだ具体的な計画はありませんが、それも面白いアイディアだと思います。もしそうした時計を作り続けていくのだとしたら、バルチックとは別のブランドを立ち上げて、2ラインで展開していくのも面白いですね。以前にデッドストックのヴィーナス150ムーヴメントを搭載したクロノグラフを製作して、オンリーウォッチにユニークピースとして出品しましたが、あれはバルチックとしても実験的で興味深い試みでした。そういうデッドストックの高級ムーヴメントを取り入れながら、今製造を依頼しているファクトリーに頼んで、20~30本くらいの限定ラインを立ち上げるっていうのも試みとしてはいいと思います。今ではちょっと珍しいスタイルの時計をリリースできたらいいですね。


 

【問い合わせ先】
H°M'S" WatchStore表参道
TEL.03-6438-9321

 

取材・文◎巽 英俊

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