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【よく聞くヴィンテージ時計ってそもそも何?】アンティーク時計とどこが違うのかを整理してみた|菊地吉正の時計考_017

写真◎LowBEAT編集部

近年やたらと「ヴィンテージ」という言葉を目にするような気がする。個人的な意見だが、何となく言葉だけがひとり歩きしている感は否めない。そこで今回は、あくまでも筆者が専門とする時計市場に限ってのことだが、ヴィンテージ時計とアンティーク時計について整理してみたいと思う。

まずGoogleで「ヴィンテージ時計とは」と検索してみたところ、賛否が分かれるAIで以下の内容(そのまま転載)が表示された。

「ヴィンテージ時計とは、一般的に製造から30年以上が経過し、生産が終了した古いモデルを指し、特に1970年代以前の時計を指すことが多いです。ファッションアイテムとしての魅力や、現代にはない味わい深いデザイン、手頃な価格で高級ブランドが手に入る点が特徴ですが、防水性能が低い、水や衝撃、磁気に注意が必要など、丁寧な取り扱いが求められます」

これが正しいかは別として、簡潔にうまくまとめられており、思わずなるほど…と感心させられた。

みなさんもご存じのように「ヴィンテージ」とはもともとワインの価値を表すのに使われている言葉である。近年はブームもあってファッション分野でかなり頻繁に使われているように感じるが、その影響もあって腕時計市場でもヴィンテージという言葉を使うケースがやたらと目につくようになった。

アンティークについてはアメリカの通称関税法において1934年に製造から100年以上経過した手工芸品・工芸品・美術品と定義されて課税されないらしい。資料によるとWTO(世界貿易機関)もアメリカのこれを採用するようになって、現在は“アンティーク=100年以上経過”が世界的な定義としても認識されているようだ。

一方で“ヴィンテージ”についてはAIの説明にあるように製造から30年以上経過したものと言われているようだが明確な定義はない。そのため20 年以上としているところもあるなど、その基準はかなり曖昧なのが実情である。

さて、我々の時計業界に目を向けると、筆者が刊行する業界唯一のアンティーク時計専門誌「ロービート(Low BEAT)」を創刊する際に編集方針としてアンティーク時計の独自の定義を設けた背景がある。もちろん、専門ショップやバイヤーなど業界関係者へのヒアリングを踏まえてだ。

なぜかというと本来のアンティークの定義となる製造後100年に合わせると、家具やジュエリーはいいが、時計の場合はそのほとんどは懐中時計となってしまい、圧倒的な人気の腕時計がアンティークとして括ることができなくなるからだ。そこで日本市場において独自に設定したのが「1960年代までに作られた腕時計をアンティークとする」ことである。

よくアンティーク時計の定義を1970年代以前として、その理由にクォーツショックを挙げているのをよく見かけるが、それだけではなく71年に始まったスイスフラン高が追い打ちとなり、各メーカーは生き残りをかけてコスト削減を迫られたため、70年代を境に手作りだったそれまでのウオッチメイキングが一変したというのが正しい。

詳しくは「【アンティーク時計入門・第2回】ご存じですか。アンティーク時計とはいつ頃の時代のものを指すのか?」(関連記事参照)という記事で書かせていただいているので、そちらを読んでいただきたい。

だだしロレックスだけは少し状況が違うため独自に基準を設定している。これについては来週お届けしたい。

最後に、我が編集部では1970年代から1990年代までに作られた腕時計のことをヴィンテージではなくポストヴィンテージと呼んでいる。この言葉が適切かどうかはさておき、すべてをヴィンテージで括るのはさすがに乱暴すぎるため便宜上、年代を区切ってわかりやすくしているとうわけだ。

いずれにしても時計に限らず日本で使われているヴィンテージとは「長い時間をかけて生まれた独自の味わいと魅力を備えたモノ」という意味合いなのだろう。ただそれはあくまでも感覚的なものだということを踏まえておきたい。

■【アンティーク時計入門・第2回】ご存じですか。アンティーク時計とはいつ頃の時代のものを指すのか?[前編]
■【意外に知らない腕時計の夜光】ロジウム、トリチウムそしていまや世界シェアほぼ100%の日本製|菊地吉正の時計考_016
■【たかが手巻き、されど手巻き】手巻き式腕時計の魅力とメリットを考える|菊地吉正の時計考_015
■アンティーク時計300本の収益金を市に寄付。その貴重なコレクションは本として後世へ|菊地吉正の時計考_014
■【夏はやっぱコレでしょ!】ロレックス用に作った“リベットブレス”でヴィンテージ調にイメチェン

菊地 吉正 - KIKUCHI Yoshimasa

時計専門誌「パワーウオッチ」を筆頭に「ロービート」、「タイムギア」などの時計雑誌を次々に生み出す。現在、発行人兼総編集長として刊行数は年間20冊以上にのぼる。また、近年では、業界初の時計専門のクラウドファンディングサイト「WATCH Makers」を開設。さらには、アンティークウオッチのテイストを再現した自身の時計ブランド「OUTLINE(アウトライン)」のクリエイティブディレクターとしてオリジナル時計の企画・監修も手がける。
2019年から毎週日曜の朝「総編・菊地吉正のロレックス通信」をYahooニュースに連載中!

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