中秋の名月といえば十五夜。つまり明日(10月6日)がちょうど満月となる。ウェザーニュースをチェックしたところ、筆者のいる関東の天候はどうやらあまりよろしくなく、美しい月を愛でることはちょっと難しいらしい。
ということで今回は腕時計の付加機能のひとつで、そんな月の満ち欠けを文字盤上で表現するためのムーンフェイズ機構について書きたい。その歴史は腕時計の歴史よりもはるかに古く、16世紀にはすでに置き時計に出現し、懐中時計に装備されるようになったのは18世紀以降だ。
掲載した写真の時計は筆者が1980年代のデットストックの手巻きムーヴメントを使用し、新たにデザインを起こして17本だけを製品化したアウトラインのムーンフェイズクロノグラフ(すでに完売)である。
それを見てもらうとわかるが、ムーンフェイズ機構の月の図柄には近年ほとんど描かれなくなった顔があり90年代まではとても愛嬌があった。そのためムーンフェイス(Moon Face)と勘違いしてしまう人もいたぐらいだ。ムーンフェイズ(Moon phase)と濁るのが正しく、直訳すると“月の位相”。つまり “見かけ”である。
さて、なぜこの機構が生まれたかというと、満月と新月が大潮、半月が小潮。大昔の船乗りは航海時にこの月の状態を見て判断していたらしく、その月の位相が確認できる機能として考案された。何といっても天候に左右されないというのが素晴らしい。
仕組みはこうだ。新月→満月→新月という月の周期は29.53059日。機械式時計の場合はこれを歯車で動かさなければならない。端的に考えれば歯車にその日数分の歯を作ればいいのだが、29.5日の0.5を歯数で表現するのは不可能。
そのため29.5の倍数である59日として、歯車に59個の歯を設けて1日で1歯動かしたというわけである。月が描かれたムーンディスクには必ず二つの月がデザインされているのにはこんな理由があるのだ(写真はコチラ)。
ちなみに、ドイツの高級時計ブランド、A.ランゲ&ゾーネのムーンフェイズ機構は機械式ながら月の周期を99.998パーセントという高精度で再現。よって時計の動きを一度も止めなかったとすれば1日分の調整が必要となるのは何と122.6年後だ。もちろんもっと高精度なものもある。対して昔ながらの59歯のムーンフェイズの場合は約2年半で1日の誤差が生ずる。